音楽業界を裏で支える仕事の中として専門的な知識と技術を要する職業がある。後方中央に設置されたミキサー卓で音を細部まで調整する音響(PA)、そして演出や構成に合わせて企画からオペレーションまでを行う照明(ライティング)。こういった技術チームは、フェス、コンサート、舞台、TVなどあらゆる現場で非常に重要な役割を担っている。


渋谷のクラブ密集地帯、円山町の中心に位置するclubasia(クラブ・エイジア)は1996年のオープン以来、長年に渡りカルチャーの発信地として多くの人々に愛されてきた老舗クラブで、週末には幅広いジャンルの様々なコンセプトを持ったパーティが開催されている。また平日にはライブハウスとしても稼働しているので、10代の方でも遊びに行った事がある方は多いだろう。

今回はclubasiaを始め、VUENOSGladLOUNGE NEOを経営するCulture of Asiaの全店舗の音響・照明チームを統括する中田学氏に、クラブでのお仕事についてお話をお伺いした。
 

▼前回のインタビュー記事はこちら▼
VJ(ヴィジュアル・ジョッキー)とは?クラブVJとして活躍するHATEGRAPHICSにインタビュー​​
 

Q.中田さんのお仕事についてご説明をお願いします
Culture of Asiaが運営するclubasia、VUENOS、Glad、LOUNGE NEOの4店舗で音響と照明、ステージ進行を行なう「テクニカル」という部署を統括しています。現場に出ることも多く、音響、照明、ステージ進行といった様々なポジションで仕事をしています。


Q.​ステージ進行とはどんな事をするのでしょうか
イベンターとの打ち合わせ、当日のステージのセッティング等、イベントをスムーズに進行するために全体像を把握しておく必要がある重要なポジションです。急な変更やトラブルに対応できる力が必要となります。


Q. 現在はどういったイベントに関わってらっしゃいますか
最近は週末のasiaのクラブタイムに入ることが多いですが、テクニカルチームをまとめる立場なので全てのイベントに関わっています。ライブタイムのイベントに関しては、規模の大きなものや大変そうなものには、最初から一緒にプランニングしたりスタッフにアドバイスするなどしています。


Q.お仕事を始めたきっかけを教えてください
もともと音楽が好きで、高校時代から漠然と将来音楽に携わる仕事につきたいと考えており、音響や照明について学べる専門学校に進みました。学校では音響や照明、映像、テレビ関係まで幅広く学べて結構面白かったんです。それがきっかけでこの業界に入りました。卒業後、レコーディングスタジオから一度内定をもらったものの、それが取り消しになってしまったので、通っていた専門学校で10ヶ月ほど働きました。自分が教える立場になったことにより、逆に自分も更に深く学ぶことができましたね。21歳の頃、当時あったasia系列のレコーディングスタジオでレコーディングの仕事についたのが、現在の仕事を始めたきっかけです。スタジオで働きながら、人手が足りない時にはクラブやライブハウスの現場で音響や照明なども手伝っていました。


Q. 今の仕事を始めてどのくらいですか
もう15年位はこの業界にいます。レコーディングスタジオがなくなった後は、現場で様々なポジションで仕事をすることを繰り返していました。経験を積んで現場を全体的に把握できるようになり、現在のテクニカルチームをまとめる立場になりました。通常、音響や照明は専門の人が担当している場合が多く、一つのポジションを特化して突き詰めていく方が良いのでは?という意見も多いのですが、僕は全てのポジションが楽しかったので「どうせ全部やるなら“広く浅く”ではなく”広く深く”やってやろう」と思って現在に至ります。


Q.使っている機材を教えてください
【音響】
音響卓を一つ取ってもそれぞれアナログからデジタル、またデジタルの中でもメーカーの違うものをイベントによって使い分け、系列店舗内で様々な経験ができるようにしてます。asiaでは音響卓MAIDAS Heritage2000、メインスピーカーにEAW KF650とEAW DC2のシステム、VUENOSでは音響卓がMAIDAS PRO2、メインスピーカーにEVI MT4システム、Gladでは音響卓がYAMAHA M7CL、メインスピーカーにL-acoustics ARCS WIDE/FOCUSシステム、NEOでは音響卓がYAMAHA LS-9、メインスピーカーにRCF TT25A/TTS28システムを使用しています。

【照明】
照明は各々の店舗で機材の行き来やバックアップ・互換ができるようメーカーを揃えてます。asiaでは照明卓AVOLITE PEARL EXPERT PRO、VUENOS、GladではAVOLITE PEAL2010の照明卓を使い、様々なムービングや照明を操作しています。

DJ機材や音響のマイク、スピーカーなどの新製品の情報は常チェックしていますね。また、年に数度、機材の大規模な展示会があり、そういった場でご縁があったメーカーや業者さんから機材を借りたりもします。



Q.イベントがある日の1日の仕事の流れを教えてください
まず前日までにイベントや出演者の情報を元にして、当日の進行や使用するマイク、機材の配置等、詳細な点についても打ち合わせを行います。当日は、クラブタイムの場合21時には会場入りし、ライブタイムのイベントのバラシと平行しながらセッティングや照明のデータを打ったりという作業をします。22時になると出演者が来るので、サウンドチェックやリハーサルを行いますが、事前のプランニングと若干のズレも出てくるため、相談しつつ調整していきます。オープンまでの限られた時間で準備しなければいけないので、ライブタイムのチームも含めたスタッフ全員で動きます。オープンして実際に会場にお客さんが入ると、リハの時とは状況も変わってくるので、常に臨機応変にベストな音が出せるよう調整し、照明演出も行います。音が出ないなどの細かいアクシデントも発生しますが迅速に対応していきます。もちろんトラブルになる前にできるだけそうならない様に準備や対策もしていきます。スムーズな進行やトラブル対応能力が必要となることはもちろんですが、最も重要なのは事前の打ち合わせですね。事前にイベントの内容を把握できていれば、何が起こってもある程度は対処できるので。


Q.このお仕事をする上で、​やりがいを感じるのどんな時でしょうか
これだけ長く働いていると、当時asiaのレコーディングスタジオを使ってくれていた人が現在ライブに出てくれたりするんです。それこそ10年ぶりに再会して、お互いに「まだ音楽業界で頑張ってたんだ」「まだ居てくれて良かった」なんていう嬉しい会話を交わすことも結構あります。自分の仕事は出演者が気持ち良くプレイできる事、やりやすさを感じてもらうことだと思っているので、出演者から良い評価をもらえた時や、またasia系列のハコでイベントをしてもらえることはとてもありがたいですし、やりがいになっていますね。これからも気持ち良くイベントをしてもらえるように頑張ります!


Q.大変だと感じることはどんな事ですか
拘束時間が長いことですかね。本番が始まると休憩時間も取りづらいですし...。それでもやっぱり終了後に出演者から「またよろしくね」と言ってもらえて握手した時には苦労が一気に喜びに変わります。


Q.クラブタイムでも女性が音響・照明を担当することが増えてきていますが、そのことについてはどう思いますか
現在asia系列で働いているテクニカルチームも3分の1は女性ですね。特に照明は女性の方が多いかな。女性ならではの気遣いもできるし、出演者にも優しい人が多いかなと思います。昔は男の人が多い業界だったこともあり男勝りな女性の方もいますが、それもまた素敵ですね。でも結局は、性別よりも大事なのはその人の個性だと考えていますので、一人一人の特色を上手く活かしていくことが大切ではないでしょうか。現場では重い機材等を運ぶ力仕事もあるため大変だと思いますが、そこはチームでカバーしながらやっていくので女性でも問題はありません。


Q.PAや照明になるにはどうすればいいですか。近道はあるのでしょうか
音響や照明の専門学校で、まず基礎的なことを学んでからクラブやライブハウスの求人を探すのが一般的ではあります。ただ、専門学校は基本的なことを教わる点では良いですが、そこで挫折してしまう人はかなり多いです。業界や仕事内容を知った上で進路を決められるという点で専門学校の存在は必要かなと思います。ただ、学校には行かずに全くの未経験で飛び込んできて、今でも続けている人もいます。経験や知識がなくてもやる気と根性があればこなしていける仕事かなと思います。やっぱり現場に出てから覚えることは非常に多く、思い切って業界に飛び込んでみることもPAや照明を目指す人にとっての近道であると思います。asiaでは未経験でもやる気があればもちろん歓迎しますよ。なんにせよ、機材の取り扱い方など覚えなければならないことや難しいことも多く、自分なりの努力を仕事の時間外でも積極的にしていく必要はありますね。



Q.ハコに所属して専属でお仕事をしている方とフリーランスでお仕事している方の違い、良い点と悪い点を教えてください
ハコに専属する利点は、そのハコそれぞれの特性やクセを十分に理解しオペレートできる点でしょうか。悪い点は他のハコや現場の良い部分を取り入れず、盲目的になってしまう場合もある、という点ですね。うちも少なからずそのような部分もあると思いますが、ただフリーランスで様々なジャンル・現場で活躍している人員もいますので、良い部分は取り入れて日々改善し、良いハコにできるように取り組んでます。


Q.どんな人がこのお仕事に向いていると思いますか
根性や向上心がある人はもちろんですが、怒られてもへこたれず成長して行ける人です。本番は一回きりですから、一度のミスでイベントが壊れてしまう可能性もあるのでミスに関しては厳しく注意します。


Q.音響・照明といった職業の方同士、横のつながりってあるのでしょうか
東京のクラブだと店長やブッキングチームはかなり横の繋がりがある場合が多いですが、技術系に関しては他のクラブと接することはあまりないのではないでしょうか。そう思っているのは僕だけかもしれないですけど(笑)。ライブでは出演者のサポートで他のライブハウスのスタッフが同行している場合も多く、そこそこ繋がりはあります。なので、他クラブのテクニカルな部分や機材については、VJや出演者の話を聞いて参考にしています。


Q.将来のビジョンを教えてください
昨年風営法が改正され、以前より環境は整ってきたと思いますが、深夜営業ができなかった時期もあり、クラブ業界はどこも大変だったと思います。asia系列の店舗ではライブも多数開催していますが、シーンが盛り上がっていることもあり、そちらはかなり順調ですね。ステージがあるasia系列ならではの特色を生かしたやり方を続けていけば、ハコとして今後も残っていけると思います。僕個人としては、耳も良くて新たな感性を持っている若い世代に負けないようにずっと現場に居続けたいですし、また自分の今までの経験をどんどん彼らにアウトプットして次の世代を育てて“同士”を増やしていくことも重要だと考えています。皆に安心感を与えることができる存在で居続けたいですね。


Q.オフの日は何をしていますか
最近は寝る間も惜しんで海外ドラマばかり見てますね(笑)。「Walking Dead」「Game of Thrones」...次から次へと観たいドラマが出てくるので終わりがないですが、家に居すぎるのも嫌なので、たまには友達のライブを見に行ったりちょっと手伝ったりもしてます。でも新たなシーズンが始まるとまたシーズン1から見直したりするので、もうずっと海外ドラマばかりです(笑)。

 
clubasia
渋谷円山町の老舗クラブとして圧倒的な支持を持ちクラブカルチャーの先駆けとして、常にシーンの最先端を走り続けているclubasia。天井高6mという開放感あふれるメインフロア、独特な形状をしたバーカウンターを中心にイスやテーブルも充実しチルアウトスペースとしても利用できる1Fカフェフロア、メインフロアやカフェフロアとは全く違った演出が可能で、多目的スペースとしても活用することができる2Fのラウンジフロアと、総キャパシティ800人を超える3つの異なるフロアではオーバーグラウンド・アンダーグラウンド関係なくジャンルレスに幅広くの音楽を堪能できる。グラフィティやファッションショー等、音楽以外のアートやファッションにおいても、常に新しいスタイルを提示し続けている。

VUENOS
開放感あふれる吹き抜け型のフロアに大迫力のサウンドを生み出す巨大なスピーカーが備わるライブハウスVUENOS。地下にあるメインフロアには、音響・照明設備が充実しており、様々なイベントにも対応可能。 重厚な低音と舞台演出によりこれまでのライブハウスとは違った魅力を味わえる。

Glad
吹き抜けコロシアム状の店内は、客席のどの位置からでもステージが見やすい構造となっている。また、120インチのプロジェクターやDJ機材も常備しており、ワンマンライブはもちろんの事、プレス発表や結婚式2次会等、幅広いイベントに対応。 着席スタイルでも70席まで対応可能な為、アコースティックライブ・イベントにも適している。

LOUNGE NEO
 2002年のオープン以来、音楽イベントを中心として、企業のレセプションパーティーや展示会、結婚式2次会など幅広い用途に利用されている。湾曲した巨大な壁一面に迫力ある映像が映し出す2台のプロジェクターも完備。クラブサウンドから生演奏まで、プレイヤーの方々にもご満足いただける音環境を実現。 
 
Interview:Yurie