2017年にオーストリアのウイーンで創業したオーディオメーカー「Austrian Audio(オーストリアン・オーディオ)」。
AKG の元技術者たちがスタートさせたこのメーカーは、受け継いだ伝統と最新技術を融合させたマイクロフォンやヘッドフォンを開発・販売して世界のレコーディングスタジオやミュージシャンから注目を集めている。


日々音楽と真剣に向き合うアーティストたちに、音楽の都・ウィーンで開発される Austrian Audio のマイクロフォンやプラグイン、ヘッドフォンを実際に体感してもらい、その使用感を尋ねてみるこのインタビューシリーズ。

世界中にオーディオメーカーが五万とある中で、お気に入りのヘッドホンやマイクを探し出すのは至難の技。このインタビューがあなたのオーディオライフの参考になれば幸いだ。
 

原田郁子と西川一三、長いキャリアの中で培ってきた耳と経験が Austrian Audio 製品との出会いで受けた衝撃とは?

今回登場するのは、ジャズ、ポップ、エレクトロニックと様々なジャンルを吸収した自由かつテクニカルな魅力を放ち、唯一無二の存在感で20年以上の長きに渡ってインディシーン、メジャーシーンを選ばず幅広い音楽ファンから愛され続けるバンド「クラムボン」のボーカル・鍵盤を担当し、ソロ活動でも評価の高い原田郁子、そしてそんな彼女をクラムボンのデビュー前から舞台裏から支え続けてきた、業界の重鎮として知られるサウンドエンジニア西川一三


そんなお二人に、"配信での音作り" におけるターニングポイント的な存在となったマイク「OC818」との出会いや、ライブ配信を通しての使用感、そして Austrian Audio 初のハンドヘルドマイク「OC707」「OD505」、フラッグシップのヘッドフォン「Hi-X65」「Hi-X60」についても試してみてもらった。

原田郁子、クラムボンファンはもちろん、ライブ配信での音にお悩みの配信者、プロデューサー、バンドマンも必見の内容となっているので要チェック!!
 

デビュー前のクラムボンが惚れ込み、信頼し続ける西川一三の音作りと、共に探究してきた音の奥深さ

iFLYER:お二人の出会いについて教えてください。

原田:クラムボンは皆、音楽の専門学校の同級生なのですが、ミト君にフィッシュマンズの「空中キャンプ」を貸してもらって、衝撃を受けたんです。そして、96年〜98年ぐらいにはフィッシュマンズのライブを観に行くようになりました。ライブは全くの異空間というか、低音の海にひたひたに浸かってみんなゆらゆらと踊っていて「なんだこれは……」と。アルバムとはまた違った衝撃がありました。これまでに体感したことがないライブだったんですよね。その頃はもう ZAK さん(フィッシュマンズ『Neo Yankees' Holiday』から『宇宙 日本 世田谷』までの全アルバムの録音、ミックス、共同プロデュース、多数のライブ PA を手がけたエンジニア)から西川さんに移行していた時期だったみたいで。

西川:クラムボンに出会ったのは、98年ぐらいですかね。

原田:デビュー前から今もクラムボンのマネージャーをやってくれている豊岡さんが、私たちがフィッシュマンズのライブに通っていたのを知って、西川さんにコンタクトを取ってくれたんです。ライブ PA をお願いできないかと。みんなで西川さんが PA をしているライブを観に行って、バラシのときに初めて挨拶したのを覚えています。その際に、西川さんは「どうして僕なんですか?」というようなことを豊岡さんに尋ねられていて、「そうだよな」と思いました。どんな音を出しているバンドかわからないのに、答えようがないよな、と。でも、そこから現在に至るまで、もう……え? 何年になるんだろう。25年の付き合い? ですね。すごい! どうしても西川さんが他の現場と重なってしまったとき以外は、ずーーっと一緒にライブをやってきて、クラムボンにとって欠かすことのできない方です。常にライブにおけるバンドサウンドを担っていただいていますが、ソロのライブでお願いすることもあります。なのでもう、恥ずかしい失敗も全部見られてますね(笑)。

西川:それは、お互いね(笑)。


iFLYER:何か印象的だったエピソードとかはありますか? あの時大変だったね、みたいな。

西川:いつも大変ではあるんですが「ドコガイイデスカツアー」というのが……あれが一番……。

原田:鍛えられたね。

西川:一番大変だったし、一番成長できた時期というか。

iFLYER:それは、ツアーが特殊だったという意味でしょうか?

西川:凄い特殊です、ライブハウスでやらないので。ハイエースロングに、マネージャーさんと僕、メンバー3人の合計5人で乗って、後ろに楽器と PA のスピーカーやミキサーを全部積んでツアーをしました。

iFLYER:毎回、現場ごとにセッティングを変えなければいけなかった?

西川:そうです。場所によっても全然。

原田:福岡にある「博多百年蔵(石蔵酒造、国の有形文化財)」に初めてライブしに行ったとき、リハーサルで西川さんとミト君(作詞家、作曲家、編曲家、音楽プロデューサー。クラムボンのバンドマスター、ベース、ギター、キーボードなどを担当)が音の良さに気がついて「なんかここ、あるよ!」「なんだろう?!」って興奮していて、その日の演奏がむちゃくちゃ良かったんです。終わっていろいろみんなで話していて、100年以上の時間が経っている壁や天井、酒造りに適した床、構造、そういう一つ一つが奇跡的に功を奏していると。建物自体が鳴っている音、「箱鳴り」がいいことがものすごくライブに影響するっていうことを、改めて体験した出来事でした。

石蔵酒造 博多百年蔵
iFLYER:それは、木造だから、バイオリンとかそういう楽器の鳴りのような現象が起きるのでしょうか?

西川:そうです。共鳴とかですね。

原田:"会場が楽器" という感覚ですよね。目から鱗でした。それからは、おもしろい音が鳴りそうな場所を探したんです。ライブをするためのサウンドシステムをコンパクトにして自分たちで持ち回れば、コストを下げてもっと色々なところに行ける。廃校や、能楽堂など、その土地ならではの場所を探してライブをしていたんですが、途中から、ステージ上でお客さんたちに直接、「クラムボンのライブを見るなら、どこがいいと思う?」と聞くようになったんです。そこで挙がった場所や応募してもらった場所を、電源の確保から駐車場までリサーチして、実現できる会場をハイエース一台で周りました。それが「ドコガイイデスカツアー」です。機材と楽器を搬入して、会場に入ったらまず手をパンパン叩くところから始めてね(笑)。


西川:どんな鳴りの場所なのかを皆で手を叩いて確認して、今日はどんな曲ができるのかを考えました。例えば、手を叩いてみて残響が長いところだと速い曲はリズムが見えなくなるので、ちょっと遅めの曲をやるとか、逆にタイトなところは速い曲や激しい曲をやったりとか。

iFLYER:その場所の音の響きありきでセットリストを毎回考えていたんですね。

原田:そうですね。雰囲気、その土地や天候によって曲を選んでいました。客席のレイアウトやステージの場所も、一回組んで音を鳴らしてみて、「うーん、やっぱり違う」ってなったら全部場所を変えたり。ガラスが反射するね、とかローの締まり、ドラムの音量や被り、そういうことをひとつひとつ西川さんと一緒に試行錯誤しながら。

iFLYER:セッティングに時間が掛かりそうですね。

西川:いや、それが小慣れてくると全然で、スッとできちゃうんです。

原田:全員無言でね。それぞれが自分の持ち場に集中していたから、険悪なバンドに見えたかも(笑)。

 

録るものによって最適なマイクを使い分け、どんな場所やシチュエーションでの演奏でも最善の形で観客に届ける

iFLYER:これまでにどのくらいの数のマイクを試されてきたのでしょうか?

西川:分かっているだけでうちに今、150〜160本あります。もしかしたらもうちょっと増えてるかもしれないけど、数えなくなったんで……。

iFLYER:現場やアーティストさん、録るものによってマイクを使い分けているんですか? 

西川:そうですね、変えます。どのマイクが一番合うのかを探すのは、最早趣味のような感じです。

iFLYER:各マイクごとの性質も全て西川さんの頭に入っているんですか?

西川:もちろん。

原田:同じメーカーでも、新しいものがどんどんでてくるから、それが西川さんのうちにアーカイブ化されているってこと? 見たいですね、それは。

西川:でも、家にはなくて、各バンド専用でケースごとに散っているんですよ。クラムボンもケースであるよね。どこのバンドのマイクセット、みたいな感じで延々と増えていく……。

原田:大事な仕事の道具だし、重要だよね。

西川:うん。一番最初の入り口だからね、マイクは。
 

原田:西川さんと一緒にやってきた中で、相当ボーカルマイクの遍歴があるね。バンドの流れやモードというのがその時々にあって、ミト君が理想とするもの、今こんなことに興味があって、新曲はこんな曲で、音源はこんなふうに録音されていて、ライブではこんなふうに鳴らしたい、というようなヴィジョン、サウンド面の相談を西川さんと話して、細かいディレイや音色まわりも含めて、一緒に作っていくんですけど。
ライブで、演奏はラウドだけど小さく歌いたい、という場面があるとしたら、どうしても声が潜ってしまって、言葉が聞こえづらくなる。両立させながら聴かせるためにはどうしたら良いか、というのはずっとテーマでもあって。試したマイクは……凄い数だよね、きっと。

iFLYER:原田さんの歌い方として、囁いているように歌ったり、囁き声にしても普通に囁いているだけではなく、擦れてみたり、遠い感じで歌ってみたりと、その時によって違っているので、それを拾うのは結構大変なのかな、と思いますが、特にライブだと難しそうですね。

西川:いや、でも「ここでこんな歌い方になる」というパターンが自分の中に入ってきちゃえば、あまり考えなくても指が勝手に動きますね。

原田:例えば、小淵沢のスタジオである新曲を録る際には、台所で録ったり、あんまり「歌います」という感じではなく、ラフに声を録っていて、その曲をライブでやるってなったときに、ステージの上で、目の前にお客さんがいて、大きな音で鳴っていると、歌い方は絶対に同じにはならない。そこを、ライブでその曲がどんな風になっていくのか、一緒に作っていくというか、育てていく感じかもしれない。


西川:新曲の歌い方や、ここはどうしてもこういう風に、というようなのは相談するよね。

iFLYER:作った時の感じをどうやって再現するのか、という感じですか?

原田:うーん、再現というよりは、変化していくことを楽しんでいるのかも。

iFLYER:リスナー側の人間なので、それを作り出す工程を深く考えたこともなかったですが、今こうやって改めてお話を聞かせていただくと、凄く面白いですね。

原田:生のものを捕らえて、その瞬間、どう最善を尽くすか。演奏する場所も時間も二度と同じはないけれど、「良いライブにしたい」といつも思います。

 

原田郁子がコロナ禍で出会ったマイク「OC818」が、160本以上のマイクを試してきた西川一三の "ライブ配信の音" に対する意識を変えた

iFLYER:原田さんと「OC818」の出会いについて教えてください。またサウンドや機能性など、どのような点が気に入って導入されたのでしょうか?

原田:2020年、コロナでライブが全然できなくなって、すごく時間ができまして。パソコンを使って自分で曲を作る「宅録」を始めたんですよね。西川さんに借りてずっとライブで使ってきた「NEUMANN」のダイナミックマイクで録音していたんですが、何か新しいマイクがほしいなと思うようになりました。吉祥寺に妹がやっている「キチム」というイベントスペースがあって、やはりライブができなくなって大打撃を受けてしまったので、他のライブハウスの皆さん同様、ライブ配信をはじめてみようということになって、映像機材を揃える中で、レコーディングエンジニアの星野誠さん(クラムボンのアルバム「id」「imagination」「てん、」「LOVER ALBUM」「Musical」の録音、ミックスを担当)に相談したんです。「なにか面白いマイクありますか?」って。いくつか挙げてもらったのですが、Austrian Audio の「OC818」がすごく良いですよ、「OC818 Live Set」という2本セットもありますよー、と教えてもらって、ホームページと動画を見て、「これだ!」と。直感的に、2本あると面白いことができそうだなって。名前に「Live」って入っているのもいいですよね。鬱屈とした気持ちとエネルギーが、何かポジティブな方向に転換できそうな予感もあって、あの時、星野さんに教えてもらえて本当に良かったです。

Event Space & Cafe キチム
iFLYER:Austrian Audio のマイクは全て、差が1dB以内に調整されているので、どれを使ってもステレオペアで使えますからね。

原田:そうですね。マイクが届いてすぐ星野さんにキチムに来ていただいて、さっそくアップライトピアノとボーカルを録音してみました。

iFLYER:実際に使ってみていかがでしたか?

原田:すごく素直だなぁと。オンマイクではなくてアンビっぽく少し離して2本立ててピアノを録ったのですが、空間に響いてる感じがそのまま伝わってきて、嬉しかったですね。ボーカルも声の乗りが自然で歌いやすかったです。


西川:ちょうど僕も、PA の仕事がイベントごともライブも何もなくてどうしよう……となっていた際に、皆が配信をし始めて、全てではないのですが「配信ってこんなに音悪いの!?」って気付いたんです。それまでライブ会場の音だけ考えていたので、配信の音は気にしていなかったんですよ。でも、いざ自分がそういう立場になり、お客さんがいない中で配信ライブをやり始めたときに、めちゃくちゃ音悪いな……って(苦笑)。

原田:みんな模索しながらでしたね。


iFLYER:高音質配信を謳っているプラットフォーム等もありますが、収録する機材も良くなければ結局音は良くならないということなのでしょうか?

西川:それもあるんですが、ライブのライン録りと言われるものが原因ですね。PA ミキサーでミックスされた音を、レコーダーで録っているだけなんです。大体の場合、配信のときにはエアのマイクが何本か立ってるんですが、こちらはその混ぜ方とかが分からない。もちろん、その専門業者もあるんですが、アーティスト事務所さん等は「PA の方でやってください」みたいな。で、いざそれをやって、配信の音を聴いてみたら「あれ?」「これは、何が起こっているんだろう?」ということになっていて……。

エアのマイクを立てて、エアに入ってきた音とミキサーからのライン録りのタイミングは、絶対にずれるんですよ。ミキサーから録った方が音が早くて、エアのマイクに入ってきた音はスピーカーから出た音なので、遅れるんですよ。そこのタイミングが合わないのでおかしなことになるのではないか、ということで、まず最初にそこを合わせることから始めたんです。

そのときに、エアのマイクというのはとても重要になるんですが、郁子ちゃんが持っていた「OC818」の音を「キチム」でのピアノの音で聴かせてもらったら「エアだけどこんなに良い感じで録れるの!?」と驚いて、これを配信で使ったら良いんじゃないの、と借りて使い始めたら、凄く良かった。
 

"ライブ盤の音" は "ライブ会場の音" になってしまいがち!? ライブの臨場感や感動を作り出すために重視すべきは "音圧" と "場の鳴り"

原田:西川さんは本当に革新的というか、ライブ配信というものを皆が手探りで少しずつやり始めた早い時期から、"箱鳴り" や "音圧" を大事にしようとこだわっていたんですよね。もちろんライブ会場でダイレクトに感じられる音ではないわけだけど、そこにどうしたら臨場感を生み出せるかって。クラムボンが初めて生配信したときも、「OC818 Live Set」を使ってましたね。

西川:そういうシステムを作って、そのミックスはツーミックスとエア4本混ぜるだけなんですが、そこにも非常に大事なことがいっぱいあるので、レコーディングエンジニアの人に来てもらってミックスをお願いしました。
世に出回っている "ライブ盤" って、ライブ会場の音というか、ライブ会場風の音であって、ちゃんと聴こえはするんですけど、遠くで音が鳴っていてはっきりしていないものが多い。ライブの音って、あんな音じゃないと僕は思っているんですよ、もっとタイトで、音圧がドーンと来て、音がはっきりしていて、広がっている。それを作りたかったんです。


原田:クラムボンだけでなく、フィッシュマンズが「キチム」でトークとアコースティックライブを生配信したときも、「キチムフェス」(高野寛 × 寺尾紗穂、湯川潮音 × オオヤユウスケ、原田郁子 × U-zhaan というデュオ編成で行われた配信ライブ)のときも、フィッシュマンズがリキッドルームで 2 days のライブ("HISTORY Of Fishmans" 1991-1994 & 1995-1998)をやったときも、西川さんが PA をやってくれる現場、映像配信がある現場では、いつもこの「 OC818 Live Set」が立っていたと思います。

西川:今でも PA の仕事はもちろんメインでやっているんですが、配信のミックスだけしにいくようにもなりましたが、やはり皆、こんな風にできるんだ、というのを、聴けば分かってくれるんですよ。それで、仲間の PA さんなどが興味を持って仕事を頼んでくれるのですが、そこでは常に「OC818」を使っています。絶対にあのマイクじゃないとヤダ! って思っているぐらい、あのマイクをずっと使っています。本当は4本欲しいです(笑)。めちゃくちゃ良いですもんね、ちょっとこのマイクは普通じゃないと思いました。

原田:演奏する側のミュージシャンからすると、やっぱり慣れないんですよね、配信って。特に無観客というのは、ライブというより撮影に比重が傾くし、いつもとは違う緊張感があって。でもそこに、さっき話した "会場が楽器" というような、その場所の鳴りが含まれてくれていると、凄く安心できたんです。なんていうんだろうな、あのラインだけの音の恥ずかしさって……。


西川:なんか、 "素" だよね。

原田:そうそう(笑)!

iFLYER:そんなに恥ずかしいものなんですか!? 

西川:もちろんそこにはエフェクティブなものもあって、リバーブもかかっていたりするけれど、なんか…… "素" なんだよね。

原田:そうだね。何かがものすごく足りない。無観客だと、表のスピーカーを鳴らさない現場もあったり。

西川:そうそう、多かったよね。僕は「どうしてもスピーカー鳴らしてくれ」って凄い拒否したけどね。どうしてもそれをエアのマイクで拾いたい。それができないところは、サンプリングリバーブとか使って、擬似箱鳴りを作る、っていう。


iFLYER:表のスピーカーの使用を拒否されるというのは、うるさくなっちゃうからダメ、みたいなことなんですか?

西川:いや「今日はスピーカーなしで!」って……なんかもう、分かってないんですよね、そういう人たちって。「ライブ来たことあります? そういうことじゃないんですよ!」みたいな(笑)。まあ、分かってくれないので、もうそこは従うしかない。特にイベントの配信とかは「分かりました」としか言いようがない。

原田:"空間が鳴ってる" のを感じながら、演奏する者も、スタッフも、お客さんたちもその場にいるんだと思うんですよね。あの塊感というか、ライブ感というか、"音圧" を感じられるかどうかはすごく重要で。皆そうしたら良いのに、って思うぐらい。

西川:いやほんと。でもそこまで考えている PA さんもあんまりいないかもしれない。バランス良くミックスできれば良い、という点で「エア混ぜるのはもう配信業者さんがやってください」みたいな姿勢の方は、比較的多いです。でも、こだわっている人は自分でやっているという感じですね。

iFLYER:そこにこだわり始めてしまうと難しいからですか?

西川:ミックスしながらこちらの音の管理、となると、なかなか一人でできるような作業じゃないんですよね。まあ、やるしかないんでやるんですが……。


iFLYER:西川さんは一人でされてるんですか?

西川:一人でやる場合もあります。予算があればもちろん人に頼んでやってもらいたいんですけど。まあ、でもそれをやらないとダメかな、と僕は思うので。
ただ、「OC818」と出会っていなかったら、こういう気持ちになっていたかも分からないんで、あのマイクのお陰でもあるんです。

iFLYER:配信等の音に関して、そのような考え方に至った理由の一部は「OC818」にある、と。

西川:そうですね。いわゆる音圧だったり、空気感を出すために無理やりそういうイコライジングすると、いらないところがあったり、こんな音は会場で鳴っていない、というような不自然な音になったりするので、それらを処理をしなきゃならないんですが、このマイクを使うと “そのまま” な感じになる。「OC818」との出会いは、結構大きかったですね。

原田:わぁ。すごいな。自分もこのマイクにはインスピーレーションをたくさんもらっているんですが、西川さんもそうなんだと改めて知れて、すごく嬉しい。もちろん西川さんのこれまでの経験値があってこそなんですけれど、きっと相性が良かったんだろうなって。世界を見てもこのマイクをこんなに生かして配信の音をつくっている人いるのかな。いたらぜひ対談してほしい(笑)。
 

カッコいい形のマイクはカッコいい音がする?

iFLYER:マイクを選ぶ際に重視している点は? 西川さんはエンジニアという立場から見て、いかがでしょうか?

西川:あんまり重視しているところはなくて、音を聴いてみて良いと思えたら、というそれだけですね。こういうのが良い、というのはあまり考えずにチョイスしています。良いマイクというのは、大体一回音を聴けばそれが良いか悪いかは判断できちゃうんです。

iFLYER:使ってみてピンときたら、という感じですかね?

西川:結構……カッコいい形のやつはカッコいい音がしたりするんですよね(笑)。

iFLYER:えっ!? そうなんですか……?(笑) 原田さんはいかがですか?

原田:見た目は大事です!(笑)音に関しては、レコーディングはミト君とエンジニアさん、ライブは西川さんが納得するもので、と基本的にはお任せしてます。

iFLYER:絶大な信頼を置いていらっしゃるんですね。

西川:家で使っているマイクも、ライブで使っているマイクを持って帰って、出戻りとかありますよね。

iFLYER:Austrian Audio初のハンドヘル​マイク「OC707」「OD505」のデザインはいかがでしょうか?

原田:(ヘッドが)浮いてるね。どうなってるんだろう?


Mi7:開発者曰く、音が入ってきたときに、普通のマイクだとそこに音が反射してダイヤフラムの音が広がってしまうから、そこをオープンエアにして空間を設けることで、反射がなるべくダイヤフラムに入らないようにして、よりナチュラルに録れるようになっています。

西川:そういうことですね。707はコンデンサーでしたっけ?

Mi7:コンデンサーですね。原田さんがお持ちのやつは、アクティブダイナミックといって、フロントがアクティブ回路なんですね。そのため使用には​48ボルト電源が必要なんですよ。

西川:そのアクティブ回路って、プリアンプ的なものが入ってくるんですか?

Mi7:そうですね。それにより、コンデンサーマイク相当の感度を実現しています。リア側はハンドリングノイズとかを消すために逆相になっているので、高感度のダイナミックマイク、という感じです。

原田:今っぽい?!

西川:めちゃくちゃ面白そう。カーディオイド(単一指向性)とかのスピーカーもそうなってきていて、いわゆるキャンセリングローとか、そういう技術が使われていることも多いので、マイクもそうなってきたか……! という感じですね。

iFLYER: 今まで使ってこられた「OC818」のデザインについてはいかがでしょうか?

西川:めちゃくちゃ良いと思いますよ。高級感があって。

原田:シンプルなのも良いですよね。
 

ローもハイも空気感までしっかり再現、これまで気づかなかった音に気付ける……驚異的な音質のヘッドフォン「Hi-X65」

iFLYER:今回、Austrian Audio 初のハンドヘル​ヘッドフォンのフラッグシップモデルの開放型(オープンエア)の「Hi-X65」、密閉型(クローズド)の「Hi-X60」もお試しいただきましたが、使用感等はいかがでしょうか?

西川:Hi-X65、圧倒的でした。素晴らしい。

Mi7:ミックスとかマスタリングも視野に入れたヘッドフォンです。

西川:これ、物凄い下までローが出てますよね。

Mi7:はい。一般的に開放型はローがあまり聴こえない印象ですよね。
西川:これがオープンエアだって分かってなくて聴いていましたが、空気感が凄くあって、ライブのサブウーハーみたいなローがちゃんと聴こえるのがとても良かった。ハイの音は、いろんな音源聴いてみて面白かったのが、シンバルのドラムスティックのチップ部分とシンバルが擦れる音が聞こえるのよ、これ。

原田:うわぁ、わかる! 唇が離れる時のリップノイズも。

西川:僕、自分の耳の基準になっている、25年以上ずっと使い続けているヘッドフォンがあるんですが、それだとそこまで聴こえないんですが、「Hi-X65」だとちゃんと聴こえるんです。


原田:へえ!

iFLYER:そんな細かい音まで……。

西川:これまで、その音源自体にそんな音が入っていることに気付かずに聴いてたんですよ。「Hi-X65」で聴いて「あれ?」ってなって、他のヘッドフォンでは再生されていない音まで再生されていて、これはちょっと凄いな、と思いました。スピーカーだと聴こえるけれど、通常のヘッドフォンだと聴こえない。ヘッドフォンを使用してミックスするというのは、そういったローの音などが出ている範囲を、どの程度までスピーカーと自分(ヘッドフォン)で辻褄を合わせるのか、という話になると思いますが、その基準が近いところにあるんじゃないかな、という気がしました。30ヘルツとか20ヘルツとか、あの辺の音じゃない音というか、空気みたいな周波数がしっかりいる感じですね。

iFLYER:原田さんは特徴のあるボーカルとピアノの音が印象的ですが、そういったジャンルの曲と Austrian Audio のヘッドフォンの相性はいかがでしょうか?

原田:クラムボンの曲には、生演奏のふくよかさが生きる曲と、ミト君がトラックを打ち込んだエレクトロニックな曲と両面ありますが、どちらにも相性は良いんじゃないかな。このヘッドフォン自体が、ジャンルを選ばない感じですね。

西川:どれも良かった気がする。うるさめのギターのやつとかも、全然良い。

原田:長くパソコンで作業しているときなどは、十数時間とか作業しているので、疲れないことも重要なんですが、色々聴いてみて、耳への圧迫感や音の感じが柔らかいんですよね。凄く良かったので、使ってみようかな。

Photo:鈴木 千佳
 

原田 郁子(はらだ いくこ)

1975年福岡生まれ。バンド「クラムボン」の歌と鍵盤を担当。ソロ活動も行っており、2004年に『ピアノ』、2008年に『気配と余韻』『ケモノと魔法』『銀河』のソロアルバムを発表。 2010年5月には、妹らと吉祥寺に多目的スペース「キチム」をオープンさせる。多数のアーティストとのコラボレーションや CM 曲への歌唱参加・出演・楽曲提供、執筆、ナレーション等、多岐に渡る活動を行う。

自身が音楽を担当する劇団『マームとジプシー』の「cocoon」ツアーが7月〜9月にかけて全国9都市にて開催予定。

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原田郁子「アップライトピアノ」
後半のキチムのピアノは「OC818 Live Set」でアンビっぽく少し離して録音している。

マームとジプシー「cocoon work2 」
キャストの声、楽器の音をほぼすべて「OC818」で録音している。
>>視聴はこちらから

 

クラムボン

福岡出身の原田郁子(vocal,keyboard)、東京出身のミト(bass,guitar,composer)、 北海道出身の伊藤大助(drums)が音楽の専門学校で出会い、1995年にバンド『クラムボン』を結成。 シングル『はなれ ばなれ』で1999年にメジャーデビュー。当初よりバンド活動と並行して、各メンバーのソロ活動、別ユニット、別バンド、楽曲提供、プロデュース、客演など、ボーダレスに活動を続けている。
2003年に自身らの事務所『tropical』を設立、また山梨県小淵沢にスタジオの制作、2010年よりサウンドシステムを保有しライブハウス以外の会場で全国ツアーを開催。2015年には結成20周年を迎え、9枚目のオリジナルフルアルバム「triology」を発表し、キャリア初となる日本武道館公演をおさめた。
2016年より自身のレーベル「トロピカル」で『モメントe.p.』を発表。ライブ会場限定で CD を販売しサイン会を行う全国ツアーを開催。そこで一般流通を介さず活動に賛同してくれる店舗への直接販売を開始する。2017年『モメントe.p. 2』、2018年『モメント e.p. 3』と続き、これまでにジャンル問わずの約300店舗にまで広がりを見せている。DVD、アナログレコードも追加され現在も販売・募集は続いている。
2021年8月には東京2020パラリンピック開会式へ楽曲提供を行った。今年2022年は新たに『モメント l.p.』のアナログレコードをリリース。7月放送の TV アニメ『ユーレイデコ』の OP 主題歌をクラムボンが担当する。また、7〜9月に自主企画イベント『clammbon faVS!!!』を7月から3ヶ月連続開催する。

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西川 一三(にしかわ いちぞう)

音響技師 / PA エンジニア。1990年代初頭、心斎橋クラブクアトロでキャリアをスタート。全国のライブハウスはもとより、スタジアムクラスのライブ、フジロックなどのフェスなどでライブ PA を担当。現在手掛けているアーティストは Suchmos やクラムボンら。ミュージシャンが望む音像を会場で再現するその職人的センスは多くのクリエイターに支持されている。直近の担当作に Suchmos『THE LIVE YOKOHAMA STADIUM 2019.09.08』(F.C.L.S./Ki/oon Music)


AUSTRIAN AUDIO

公式ホームページ:https://www.mi7.co.jp/products/austrianaudio/

日本総代理店:MI7 JAPAN

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