2018年7月6日に恵比寿LIQUIDROOMにて開催された「TOKYO CUTTING EDGE vol.02」。「すべての音楽がある TOKYO だからこそ、ほんものの音楽、ほんとうにいいと思える LIVE を提供する」というコンセプトを持つ TOKYO CUTTING EDGE であるが、回を追うごとにパワーアップし、vol.02となる今回は、長岡亮介、jan and naomi, WONK ら実力派アーティストたちのライブ、そしてSHINICHI OSAWA、 EYヨ、 AYASHIGE らの DJ によって構成され、幅広い音楽ファンを来場させた。


まず初めに来場者たちの目に止まったは、地下のラウンジからメインフロアへの細い通路や、メインフロアの天井からぶら下げられたバルーンアート。大小様々なバルーンと豆電球、そしてブラックライトを使用した、バルーンアーティストの Bashico によるバルーンアートが幻想的な雰囲気を作り出していた。途中、ライトの熱で大きなバルーンが何個か破裂し、中に入っていた小さなバルーンが会場に降ってくると、踊っていた人々がその風船をポンポンと跳ね上げて無邪気に遊んでいるピースフルで楽しげな様子も印象的だった。



オープン直後のメインフロアを温めたのは、AYASHIGE によるドープなミニマルテクノ。早い時間から気持ちよさそうに音に没頭して体を揺らす人々が DJ ブースの周囲を取り囲んでいた。ライブ目当てで訪れたオーディエンスの中にも、音に飲まれて立ち上がり、踊り出す人が続出していた。


ソウルミュージックバンド WONKは、バンドによるイントロの演奏が終わったところでボーカルの長塚健斗が登場、すると会場の空気感がガラッと変わり、ムーディーな雰囲気に。曲によってギターがサックスに持ち替えたり、またサックスやボーカル、ドラム等にエフェクトを多用し、多彩な音色をで観客を魅了した。ドラムのリズム感がすばらしく、バンドメンバー同士の掛け合いでは息もピッタリ。最後の演奏となった4つ打ちで乗りやすいダンスナンバーの「Loyal Man’s Logic」では、曲に合わせてオーディエンスも踊り、これ以上ない盛り上がりで幕を閉じた。


SHINICHI OSAWA(大沢伸一) の DJ は、Nese Karabocek「Yali Yali」の Todd Terje Edit からスタート。時にミニマルに、時にキャッチーに、強弱をつけて巧みに観客のテンションをコントロールしていく様は、さすがは様々なジャンルを超越し、ポップシーンでもクラブシーンでも第一線で走り続ける SHINICHI OSAWA だと思わせるものとなった。


ペトローズや東京事変の活躍でも知られている長岡亮介。ギターとPC、サンプリングパットという編成で、ギターソロからライブがスタート。ギターの名手であり、ギターを知り尽くしている長岡は、必要最低限の音数で構成された繊細な音色を披露し、そのセンスと技巧を見せつけた。サンプリングパットを使ったリズムは変幻自在な音色で、CD音源で聞くのとは全く違った新鮮な印象を与えられた。


EYヨ(アイ)は Oh Well のリミックスからスタートし、80’色、トライバル色の強い選曲でフロアをリード、エフェクトを掛けて音を歪ませたり、曲をどんどん重ねていくような目まぐるしい展開を見せ、フロアに不思議な空気感を作り出した。クセの強い曲ばかりが続くのになぜかうまくマッチさせていく様は、常に前衛的で唯一無二な存在感を放つアーティストである EYヨ らしいものだったと言えるだろう。


事前のフライヤーでは、アーティスト集団 Chim↑Pom のインスタレーションも行われる、と書いてあったのだが、会場を見渡してもなかなか見つからない。なんとなくトイレに入ると、洗面所の鏡という鏡には書き連ねられた落書きが……更に個室のドアを閉めると、そこにはなんとも怪しげな張り紙が……。

トイレの中からこんにちは
普段からお疲れのあなたに。

MAGIC KINGDOM WATER
ディズニーラ●ドから汲んできた水あり〼
保持つのみ内緒の取引可能
ライブ終了まで→→TEL ×××-××××-××××
三千円


まさか、LIQUIDROOM でこんな怪しい取引が繰り広げられているのか……? と一瞬疑問に思ったものの、これはもしや!と閃いて、記載された電話番号に電話をしてみた。

(相手)「もしもし」
(iFLYER)「すみません、MAGIC KINGDOM WATER を購入したいんですが」
(相手)「あ、はい、分かりました」

そして、指定された場所に行ってみると……。
やはり、Chim↑Pom(チンポム) のインスタレーションだった!!  怪しげなプラスチックのウォーターボトルと、サイケデリックなラベルが貼られた「MAGIC KINGDOM WATER」の小瓶、そして実際にディズニーラ●ドから Chim↑Pom のメンバーが水を汲んでいるところの証拠写真が並べられており、そこから1枚の写真と1瓶の「MAGIC KINGDOM WATER」を手渡され、こちらも三千円を手渡す。


「一応、秘密の取引なので……」と、わざとコソコソやり取りする、という演出までを引っくるめて、なんとも怪しげかつ良い意味で回りくどく、そしてユニークな体験型アート作品となっており、さすがは Chim↑Pom、ヒネリが効いた体験をさせてくれると感心させられた。
この時点で午前3時半だったが、この日売人役となっていた Chim↑Pom メンバーの林靖高氏は「(iFLYERが)3人目のお客さんですね」と語っていた。



メンバーの2人ともギターとベースの両方を弾き、ボーカルもこなす jan and naomi(ヤン・アンド・ナオミ)。モデルとしても活躍する二人はステージ映えも格別で、その美しい佇まいに会場は息を飲んだ。エッジのきいたギターサウンドとノイズ、消えてなくなりそうな儚さを孕むウィスパーボイスで語りかえるように歌う。静と動の2つを匠に取り入れたサウンドで、静かにフロアの雰囲気が高揚していく中、終盤には長岡涼介がゲストとして登場、彼らしいギターの音で jan and naomi の演奏に見事に調和していく。最後の曲ではギターのアルペジオから始まり、jan and naomi の二人が最後にはステージの床に寝そべり、ドラムのキックのマイクとギターアンプのマイクで歌うというパフォーマンスを披露した。


厳選されたアーティストのライブやDJだけでも大満足であるところを、更に視覚や体験でも観客を楽しませてくれた ​「TOKYO CUTTING EDGE vol.02」。毎回趣向を変え、観客を楽しませてくれる同イベントは、ともすればマニア向けになりがちでもある良質な音楽とエンターテインメント性という、相反する二つをうまくマッチさせたイベントとなった。​​この見所盛りだくさんのイベントは今後もどんどん進化していくに違いない……という予感を感じさせられた夜となった。
 

TOKYO CUTTING EDGE vol.02

日時:2018年7月6日(金)OPEN/START 24:00〜終演28:30予定
会場:LIQUIDROOM 東京都渋谷区東3-16-6
出演:長岡亮介、jan and naomi、WONK
DJ/SHINICHI OSAWA(MONDO GROSSO)、EYヨ(BOREDOMS)、AYASHIGE(wrench)
Installation/Chim↑Pom
Balloon Display/Bashico