米サンフランシスコのロックバンド、Girls(ガールズ)の元フロントマン&ソングライターChristopher Owens。曲から曲へと事象の発生の順番で物語を紡いでいくコンセプト・アルバム『リサンドレ』、2013年1月9日、日本先行発売。彼とのインタビューです。

なぜガールズを脱退したのでしょうか? 脱退を決意する明確な理由はあったのですか?

「一番大きな理由はもっと新しいことをしたかったからなんだ。ガールズではいろんなことができたし、自分たちがやりたいこともやれた。ただ、二人以外のメンバーがきちんと決まって、ずっといっしょにやっていく様なバンドができなかったからね。それなので、今後は一人でやりたいことをやろう、と決めたんだ」


あなたはツイッターでガールズを“脱退”すると発表しました。ガールズはあなたとJR(チェット JR ホワイト)のバンドでしたが、JRはガールズをバンドとして続けていくのですか? 彼がガールズをバンドで続けていく気がないなら、あなたはなぜガールズを“解散”すると言わなかったのでしょうか?

「もうJRがこれからガールズで何かをするということはないので、ガールズというバンドは終わりだね。ただ自分のアナウンスメントとして『ガールズは終わりだ。解散する』と言ってしまうのはすごく冷たい感じがしたんだ。今までバンドに関わってきた全員の問題なので、それを自分のこととしてアナウンスするのは変だと思ったからね。自分の気持ちの中では、バンドを解散するというのではなく、『自分がつぎにやりたいこと、そう、もっと新しいことをやる為に僕はバンドを去る』という気持ちだったので、そのまま言ったんだよ。そのことによって、実際に言うことなしに、『もうガールズは終わりだ』ということをみんなが理解してくれれば、という気持ちだったんだ」


実際にソロで活動することになった今、どんな気持ちですか? 改めてガールズというバンドを振り返った時、ガールズはあなたにとってどんなバンドでしたか?

「今はすごくハッピーだよ。全てに対していい気分でいられるので、すごく満足している。ガールズを振り返っていま思うことは・・・・・・、ガールズはファンのバンドだったと思う。説明すると、ガールズは僕とJRの二人がリーダーシップをとって音楽を作っていたんだけど、まずは曲を発表したらみんなが気に入ってくれたんだ。そしてファンのほうから、『バンドとして存在してほしい。ライヴを見たい!』といった反応が返ってきたので、それをバンドとしてどういう風に成立させるか、というのを二人でやっていたんだ。オアシスみたいにもともとバンドとして存在していたわけではなく、バンドをどうクリエイトしていくか、という意味で二人でいろんな人たちとコラボレーションをして、その期待に答えていったバンドだった気がする。3枚の良いレコードを残せたし、それによって世界中から良い反応も返ってきて、すごく大きなファンベースができた。そこに対応するように、ファンが見たいものを、それが何であれ、提示しようとしてきたんだ。まずバンドがあった、というよりは、すごく良い音楽を提供して、発表して、それをみんなが気に入ってくれたバンドだったな」


では新作の話に移ります。このアルバムはコンセプト・アルバムですよね。いつ頃にこのコンセプトを思いつき「アルバムにしよう」と考えたのですか?

「3年前にはアイデアとしてはできあがっていたので、ガールズのアルバムとしてリリースすることもできたんだよ。ただ今回ソロとしてリリースすることができて、そのほうがよかったと思うんだ。ガールズの時とは違い、自分でアルバムのコンセプトに合ったミュージシャンを集めてレコーディングできたからね。あと、自分にとっては凄く個人的なストーリーなので、自分のアルバムとしてリリースできたことは良かったと思う。コンセプトとしては、ガールズの最初のツアーをアルバムにする、といった感じだった。なぜなら、それ(ガールズの最初のツアー)は全てが自分にとって新しい体験だったからね。で、アルバム一枚が一つのストーリーとして読めるような内容にしたい、と思ったんだ。だから、僕にとっても、当時の自分を思い返すようなアルバムになっているんだよ」


アルバムの曲の中で一番最初に書いた曲は1曲目の「リサンドレのテーマ」だと思いますが、その後の曲はアルバムの収録順に書いていったのですか? それともバラバラの時期に書かれ既に存在した曲をコンセプトに合うように時間軸にそってアルバムとしてまとめたのでしょうか?

「曲はバラバラの時期ではなく、本当にいっきに書き上げてしまった。もちろん、以前に持っていた音楽的なアイデアを使った曲もあるけど、特に歌詞の部分に関しては、本当に一晩で時系列にそって書いてしまった。で、それを曲にしてしまった、という感じなんだ」


実際にアルバムとしてまとめる際に、歌詞等はオリジナルのものから変更したりはしましたか?

「変えたりは全然しなかったね。そうそう、最後の曲だけは最初に全部を書いてから当時を振り返って1年後に書いたものなんだけどね。いづれにせよ、今回のレコーディングでもともと書いたものを変えたりはしなかったよ」


そもそも曲を書く際、歌詞を先につくるのですか? それともメロディーが先なのですか?

「特に決まっているわけではない。先に歌詞を思いつくこともあるし、先に音楽を思いつくこともある。けど、大抵は一緒に出てくるかな。歌詞と音楽を一緒に思いついてそれを書く感じだね」


「リサンドレ」はガールズのライヴでも演奏していたと思います。アルバム収録曲で他にガールズで演奏していた曲はありますか?

「ないよ。ガールズとして演奏したのは『リサンドレ』だけだね」


スタジオでの作業はどうでしたか? スムーズに進みましたか?

「ダグ(・ボーム/プロデューサー)とはガールズのアルバムでも一緒に仕事をしていたので、今回も彼とやりたかったんだ。彼とは仲が良かったし、スタジオの作業は楽しくなるとわかっていた。で、実際にやってみても本当に楽しかったよ。これまでやったレコーディングの中でも一番スムーズなレコーディングだったな。時間もあまりかからなかったし、理想的に進んだと思う。僕としても、新しい楽器をプレイしたり、新しいミュージシャンと仕事をするということで、とてもエキサイティングだった。関わっていた全員が楽しんでできたレコーディングだったよ」


ガールズのレコーディングとソロのレコーディングでは大きな違いはありましたか?

「今振り返ると、今回のレコーディングはガールズのファーストのレコーディングに似ていたと思う。その時は自分とJRとが二人で作業をしたからね。僕の書いた曲を彼が形にしてくれる、というレコーディングだったんだ。で、今回はそれをプロデューサーのダグといっしょにやった感じかな。ガールズのEPとセカンドの時は、もっと大勢の人、もっとたくさんのミュージシャンと仕事をしなくてはいけなかったので、それが大変だったんだ。自分の中では仕上がって完成している曲を他の人たちにどうやって形にしてもらうか、ということに関して、自分の中では苦労して悩んだところがあったんだよ。でも今回は、最初のアイデアをスムーズに形にできたと思う」


アルバムのサウンド・メイキングなどで特に気をつけたことはありますか? こんなサウンドにしたい、みたいな明確な指標はあったのですか?

「プロダクションとしては、やっぱりものすごくクリーンでミニマルなサウンドで、エフェクトがかかってないというようなサウンドを考えていたんだ。それとスペース(余白)があって、それぞれの楽器がすごくきちんと聴こえてくるサウンドを目指していた。で、その余白によって、曲ごとの個性とか、それぞれの曲の特徴がきちんと際立つようにしたかったんだ。と同時に、『曲から曲へとスムーズに流れていって、全体の流れが一度もとまることがない』というのを、どういう風に形にしようかというのもプロダクションに対してのアイデアだった」


最終的なアルバムの仕上がりを個人的にはどう思いますか?

「本当に満足しているよ。自分が求めていた『こんな風にできたら』というものになった。今聴くと、本当に美しいレコードだと思う。
実際始める時は、『前とは違って一人で新しいことをやらなくてはいけない』とナーヴァスになってしまったんだけど、本当に思うようにできて満足しているよ」


アルバムのテーマとなったリサンドレとは今でも交流はあるのでしょうか? 交流があるとすれば、彼女はこのアルバムを既に聴いているのですか? 聴いているなら彼女から何か反応はありましたか?

「彼女とは出会ってからずっと連絡を取っているんだ。恋愛というよりもずっと友達でいようというのは二人とも思っていたので・・・・・・。彼女に『君のことをレコードにするよ』と最初に言った時も、『すごくエキサイティングだ』と言ってくれたしね。で、レコーディングをして、ラフミックスの状態のCDを彼女に送ったんだよね。彼女が一番最初に聴けるようにね。そしたら『すごく良いレコードで気に入った』と返事が返ってきたんだ」


アルバムの写真はライアン・マッギンレーの撮影ですが、彼と出会った経緯は? また、フォトグラファーとしての彼をどう思いますか?

「最初に知り合った時は三年前かな。彼が写真集を僕のところに送ってくれたんだ。その中に手紙が入っていて、『君の音楽が僕にとって凄く大きなインスピレーションになっている』と書かれてたんだ。なので自分がその後にニューヨークでライヴをした時に、ニューヨークに住んでいる彼をコンサートに招待したんだ。それ以来、ずっと友達で、本当に一緒に色々なことをやっていているんだよ。例えば彼の展覧会のオープニングで自分が演奏してみたりとかね。今では親友の一人なんだ。実際、彼は友情を続けようとしてくれるんだよ。メールをかかさず書いてくれたりとか。だんだん連絡をとらなくなってくる人はたくさんいるんだけどね。もちろん、彼の写真については、知り合いになる前からずっと知っていたよ。本当にいい写真だと思っていたんだ。とても美しい写真だよね。あと、彼が取り上げるテーマも本当に好きだね。“若さ”というものを取り上げたりとかね。あとは、決して片面だけではなく、男の人、女の人、色々な人の美しさを表現しているとも思う。それともう一つあるのは、彼は、『何か自分で新しいものを作り出そう』というよりも、すごく客観的に世界を観察していて、その自分が見る世界の美しさをとらえようとしていると思う。それってアーティストとして必要なことだと思うんだ。自分のものとして何かをクリエイトするのではなくてね。そこに彼の素晴らしい才能があると思うんだ。実際アーティストとしてお手本にしているような人の一人だね」


エディ・スリマンと知り合いになった経緯は? またなぜサンローランの広告モデルとなることになったのですか?

「ライアンよりも後にエディとは知り合ったんだ。実際に親しいという意味ではライアンのほうが親しいかな。もうちょっとエディのほうが仕事上の関係といった感じではあるんだけどね。でもライアンと同じ位、エディのことも尊敬しているよ。エディのサンローランの仕事を引き受けたのと同じ位の時期に僕はガールズを脱退したので、『一緒に何かをやるチャンスだ』と思ってエディは連絡してきてくれたんじゃないかな。彼とは二日間、撮影の時間があったんだけど、アートやファッションの世界であれだけの位置にいる人と一緒に仕事をできたのは本当にいい機会だったね。撮影はとても快適で気楽にやれたよ。自分はモデルなんかやったことはなかったし、
これからもやるかどうかはわからないんだけど、本当に楽しい体験だったよ」


ミュージシャン以外のアーティストとの交流はあなたに何か違った刺激を与えてくれますか?

「話にでたエディとかライアンといった人たちは、別のことをやっているアーティストという気がしないんだよね。『同じことをやっているけどメディアがちがう』という気がするんだよね。実際に一緒に何かをする時に、その人がミュージシャンかどうかなんかは考えもしないんだよね。もちろん、彼らのような他の分野の人と何かをやることによって、レコーディングのプロセスとかそういうのとは違った体験ができるので、自分にとっはとても良いことだよ」


最近気に入っているバンドはありますか? あなたの2012年のべストアルバムは?

「今世界でどんなバンドが活動しているとか僕はあんまりわからないんだよね。(自分の地元の)サンフランシスコで好きなバンドしか言えないんだけど・・・・・・。今、サンフランシスコで好きなバンドはメルテット・トイズというバンドかな。自分が今年聞いた中で一番良かったアルバムは、日本ではもっと前にリリースされたのは知っているんだけど、坂本慎太郎の『幻とのつきあい方』だね」


ニューヨークとサンフランシスコでおこなったライヴはどうでしたか? どんな編成でライヴはおこなったのでしょうか? ガールズとソロとでは、ライヴにあたっての心境の変化等はありましたか?

「一人だけ参加できなかったんで代役をたてたんだけど、アルバムのレコーディングに関わってくれた人全員でライヴをやったんだ。なので、自分を含めた8人のミュージシャンでの編成だね。で、アルバムの全曲をアルバムの曲順の通りでプレイしたんだ。これはガールズでもそれ以前でも一度もやったことがなかった試みだったんで、凄く大きなチャレンジだった。けど、本当に楽しめたよ。あと、今回はすごくいい会場を選んだんだ。このアルバムのツアーではフェスもやらないし、うるさいバーとかライヴハウスは選ばずに、もっときちんと音楽を聞ける会場でやろうと思っているんだよ」


今後の予定を教えてください。日本でのライヴの予定はありますか? また日本のファンにメッセージをお願いします。

「これからクリスマスなので、その休みの後に、ツアーを始める。できるだけ早く日本でもライヴをやりたいと思っている。多分、春ぐらいになるんじゃないかな。メッセージは・・・・・・、『自分の音楽に興味を持って、聴いてくれてありがとう』て言いたいな」


“Lysandre”
2013.01.09 ON SALE