東京都渋谷公園通りギャラリーにて、この冬の企画展として、独自の道をいく作家・編集者・写真家である都築響一 + おかん※アートのスペシャリスト「下町レトロに首っ丈の会」をゲストキュレーターに迎え、「Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村」 が開催される。

▼ 左から《あみぐるみ》作者不詳、《毛糸犬》後藤知恵子、《ロールちゃん人形》新居光子、《ロープ海老》作者不詳 いずれも撮影 都築響一

おかんの辞書に断捨離はない。荷物のヒモは丸めて引き出しにしまっておく。輪ゴムは水道の蛇口にかけておく。デパートの紙袋は冷蔵庫の脇に差しておく。とりあえず。そしてある日、おかんにひらめきの瞬間が訪れる——アレをああやったら、かわいいのできるやん! こうしておかんアートは生まれた(たぶん)。

おかんアートとは、文字どおり「おかんがつくるアート」のこと。メインストリームのファインアートから離れた「極北」で息づくのがアール・ブリュット/アウトサイダー・アートだとすれば、正反対の「極南」で優しく育まれているアートフォーム、それがおかんアートだ。見るひとを困惑させ、おしゃれ空間を一発で破壊し、勢いと熱さだけはあふれるほどあり、プロのアート作品にはもちろん、いまや「インサイダー」になりつつあるアウトサイダー・アートやアール・ブリュットにすら存在しない、おかん独自の破壊力。単一の価値観に収まりきらないことが現代美術の特質であるならば、おかんアートはもっとも無害に見えて、もっとも危険なアートフォームなのかもしれない。

都築響一

展覧会名にもある「おかんアート」とは、文字どおり「おかんがつくるアート」のこと。ヒモや軍手、空き箱、ビーズ、ボタンなど、日常生活において身近で安価なものや捨てずに取っておいた不要品を材料に、おかんが作る創作物は、 独特のかわいらしさ、ゆるさの世界を生み出します。本展では、 都築響一が2000年代以降、日本各地で追い続けてきた「おかんアート」の大小合わせて1,000点以上を、これまでに取材したおかんアートの達人たちの姿を写す写真とともに紹介する。

専門的な美術教育とは係わらない作り手たちによる創作物のあり方から、多様な人々の表現方法や創造性を取り上げ、アール・ブリュット概念を現代的に捉え直す展覧会となる。

また同展のなかで、荻野ユキ子、嶋暎子、野村知広の3名の作り手による「おかん宇宙のはぐれ星」を特別展示。

※おかんとは、関西方面の方言で「母」を指す愛称として知られている。本展では、広く性別や立場を越えて「おかん」の感覚を持った様々な作り手を紹介する。
 

Museum of Mom's Art ニッポン国おかんアート村

会期:2022年1月22日(土)〜 4月10日(日)
開館時間:11:00 〜 19:00
休館日:月曜日(ただし3月21日は開館)、3月22日(火)
会場:東京都渋谷公園通りギャラリー 展示室1、2及び交流スペース
入場料:無料
キュレーター:都築響一 + 下町レトロに首っ丈の会
※特別展示「おかん宇宙のはぐれ星」は、都築響一のキュレーションとなります。
出展作家:伊藤由紀、奥眞知子、尾本節子、木越貞子、久保山みどり、系谷美千代、香坂司登美、後藤知恵子、佐藤イヱ、高桒義一、新居光子、西村みどり、藤井孝子、藤岡純子、松田多瑞子、森敏子、山田二三江
他、 各地の皆さま
■ 主催:(公財)東京都歴史文化財団 東京都現代美術館 東京都渋谷公園通りギャラリー
※開催内容は、 都合により変更になる場合がございます。 予めご了承ください。
 

キュレータープロフィール

都築響一
1956年、東京都生まれ。作家、編集者、写真家。
1989~1991年にかけて美術選集「アート・ランダム」にて『アウトサイダー・アート』と『アウトサイダー・アートII』を出版し、欧米のアール・ブリュット/アウトサイダー・アートの動向をいち早く日本に紹介した草分け的存在。
今日に至るまで、都市のアウトサイドから民俗、ファッション、現代アートまで幅広い領域を横断しながら、独自の視点と経験を活かしたフィールドワークと発信を続けている。
https://roadsiders.com/

下町レトロに首っ丈の会
伊藤由紀(駄菓子とクレープの店「淡路屋」店主)と山下香(建築まちづくり事務所「状況設計室」代表)を中心に、兵庫県神戸市の兵庫区和田岬を拠点に活動する。
2005年の設立から下町に残る人や空間といった地域資源を発掘し、下町遠足ツアーの開催や下町レトロ地図の出版を通して魅力を発信している。ツアー訪問先のあちこちでおかんアートと出会って以来、おかんアートにのめり込む。現在、おかんアーチストと共に熱量と嗅覚を駆使しながら、月1回開催する「おかんアート大学」や年に一度のお祭りである「おかんアート展」に取り組んでいる。
特別展示
「おかん宇宙のはぐれ星」

キュレーターの都築響一が近年注目する、おかんアートの感覚にかぎりなく近くありながら、独自の表現を展開する孤高の表現者3名を特別展示にて紹介します。

荻野ユキ子
1934年生まれ。名画座・早稲田松竹の館内清掃に長年従事しながら、劇場入口やトイレの棚を飾るオブジェを自発的につくってきた。総菜用の食品トレー、 刺身についてくるプラスチックの笹、牛乳パック、お菓子のオマケ……日常的な廃材だけを使って組み上げられた、それはなんとも楽しいミニ・ジオラマだった。
 
嶋暎子
1943年生まれ。高校時代に独学で切り絵を始める。広告制作会社などを経てフリーで版下の作成に従事。50代になって仕事を引退し、切り絵、貼り絵、コラージュに専念するように。それらの作品と、コロナ禍の家ごもり期間につくった新聞紙バッグを2021年10月に世田谷美術館分館で展示。SNS で話題を集めた。
 
野村知広
1972年生まれ。大阪西淡路希望の家・美術部所属。イラストや刺繍にくわえて、広告チラシを折ってつくる「チラシ箱」を日々大量に生み出している。あまりに実用的すぎて長く作品として認知されてこなかったが、畳んだ紙束のカラフルな美しさに魅せられた施設職員によって収集・保存され世に出ることになった。


関連イベント
スペシャルトークやギャラリートークを予定しております。詳細はギャラリー Web サイト(https://inclusion-art.jp)にて随時お知らせいたします。