EDM 史に燦然と輝くレジェンド、DJ/Producer の故 Avicii(アヴィーチー)は、生前、1匹の愛犬・Liam(リアム)を飼っていた。そのリアムのドッグトレーナーだった Filippo Moretti 氏は、Avicii の死後、そのリアムを譲り受け、今現在リアムは彼と共に、ミラノの緑豊かな土地で健やかに生活している。
そんな Filippo Moretti 氏が、リアムを通しての Avicii との思い出を EDM.com とのインタビューで語っているので、今回はそれをお届けしたい。

Photo:Filippo Moretti

Filippo Moretti 氏 とリアム、そして Avicii との出会い

Filippo Moretti 氏が Avicii の愛犬リアムのトレーナーとなったのは、2016年のことだった。Avicii は2016年の夏、夏休みを過ごすためにイタリアの城をまるごと一件予約していた。そのとき Avicii と一緒にいたのは、Avicii の友人でハウスマネージャーでもあるファビオラ、そして愛犬のリアムだった。

当時、リアムは生後9ヶ月ほどの愛らしい子犬だったが、見知らぬ人に攻撃的になり、白で働くスタッフ全員を危険な目に合わせたため、この問題を解決するためにトレーナーが呼ばれることになった。そこで白羽の矢が立ったのが、トスカーナのセンターで英語が話せる唯一のスタッフだった Filippo 氏だった。プライバシーを尊重するため、誰のために働くのか、当初 Filippo 氏には伝えられなかったが、夏の間中、城を貸し切るということで、普通の人でないことは分かっていた、とのことだ。

Filippo 氏は何も質問せずに最初のミーティングに行ったが、リアムとの初対面は簡単なものではなかったとのことだ。リアムは全ての動きが危険で、Filippo 氏は常に噛まれる覚悟をしていたという。リアムとのトレーニングクラスの最中、Avicii は現れず。他の少年たちやファビオラが参加していたため、その時点で Filippo 氏はまだ誰のために働いているのかを知らなかったが、リアムの態度からリアムの主人は彼らとは違う人物なのだろうと把握はしていたようだ。

何度かリアムとのトレーニングのクラスを行なっているうちに、Filippo 氏は、今後このレッスンを続けるためにはプライバシーに関する書類にサインをする必要があると告げられ、サインをすると、そこでとうとうリアムの主人が Avicii であることを明かされ、Filippo 氏は信じられずに足が震えたとのことだ。
ファビオラは Filippo 氏に「ティム(Avicii の本名)はとてもプライベートな人間で、特に仕事をしている時は邪魔されるのが嫌なんです。でも、彼はあなたのことが好きで、カリフォルニアまでついてきて欲しいと思っています」と告げられた。イビサ島での最後のショーの後、皆でロサンゼルスに戻るので、そこで彼と一緒に仕事を続けて彼と仲良くなって、と言われ、Filippo 氏は荷物をまとめて LA に出発した。

カリフォルニアの Avicii の家で実際に Avicii と会ったとき、Filippo 氏はとても興奮していたという。Avicii は「好きなだけここにいて、ゆっくりリアムと仕事をしてくれ」と言った。

Photo:Filippo Moretti

リアム、Avicii と共に24時間、365日過ごした日々

Avicii と Filippo 氏は常にビジネスライクな関係だったが、時が経つにつれ、とてもソフトな関係になり、友人となった。Filippo 氏の犬の知識やしつけのルールといった話題に、Avicii はとても興味を示した。Avicii は常に礼儀正しく親切で、Filippo 氏に良くしてくれた。こんな人は初めてだと Filippo 氏は思ったとのことだ。

攻撃的な犬を相手にするのは、飼い主との共同作業も多く、決して簡単ではない。Avicii のスタジオには、彼の仕事中は誰も許可なく入れないようになっていたが、Filippo 氏に関しては、リアムに必要なものがあれば出入り OK となっていた。
Filippo 氏は、Avicii とファビオラを筆頭とする彼のチーム、そしてリアムと共に、24時間、365日一緒に暮らしていた。

2017年の晩夏、Filippo 氏たちはスウェーデンにいた。Avicii はしばらくそこに移り住んでいて、チームも皆移動していた。Avicii が旅に出て、忙しいスケジュールをこなしているうちに、Filippo 氏はリアムと過ごす時間が目立って長くなっていった。

ある晩、夕食前にテラスに出ていると、Avicii が Filippo 氏とファビオラに声をかけた。三人で座って話をし、Filippo 氏が間もなくイタリアに帰ること、そしてここでの生活が終わりに近づいていることを話した。

すると、Avicii は立ち止まって Filippo 氏の目を見つめ、こう言ったとのことだ。

「Filippo、もし僕に何かあったり、なんらかの理由でリアムが飼えなくなったら、君にリアムを飼って欲しい。約束してくれるかい?」

Filippo 氏は「ああ、約束するよ」と答えた。Avicii は既に友人であり、友人との約束は常に尊重されるべきだ、と Filippo 氏は語っている。

Filippo 氏は Avicii との仕事を終え、イタリアへと帰国した。
 

Avicii の訃報、そしてリアムとの再開

そして時は流れ、2018年4月20日(Avicci の命日)、ファビオラから一本の電話が届いた。

「ハイ、Filippo。ティムの意思を尊重しなければならない。リアムを迎えにきて欲しい」

Filippo 氏は再びイタリアから LA へ飛んだ。しかし、今回は幸せな雰囲気はなく、ただ唖然とするばかりだった。ファビオラはリアムを愛してやまなかったが、Avicii の意思を尊重したファビオラはリアムを Filippo 氏に託した。そして Fillippo 氏とリアムは今現在まで、共に暮らしている。

Avicii は Filippo 氏に対し、リアムの面倒を見ること以外にも約束していたことがあった。それはリアムを愛する全ての人たちに紹介することができるようになるかどうかである。リアムは非社交的な犬なので、簡単なことではなかったが Filippo 氏は「成功するためになんでもやると約束する」と Avicii に対して答えていた。

そのため、Filippo 氏はリアムが皆に会う機会を作りたいと考えているとのことだ。イタリアからスタートし、スウェーデンまで行き、Avicii のファンの家に寄ったりして "ファミリー" を再開させたいと考えているという。

リアムは現在6歳だが、子犬のような活気があり、Avicii のことは常に恋しく思っているようだが、Filippo 氏はできる限りのことを100%してあげているとのことだ。また、Filippo 氏の祖母にもよく懐いているという。

リアムは今ではとてもよく訓練されているので、Filippo 氏と共に大きな犬のトレーニングスクールで働いており、一緒にパフォーマンスをしたりするとのことだ。
Filippo 氏はリアムについて「彼(リアム)は、悪い状況からどのように抜け出すか、どのように回復力を持つかの見本です」と語っている。

Photo:Filippo Moretti