ケンブリッジ大学を中心とする国際研究チームが、公的および私的なコレクションの中にあった "ベートーヴェンの毛髪" とされる8種類の毛髪を分析、そのうち5種類が本物であると判断され、そこから "楽聖" と称さい歴史的に極めて重要なドイツの作曲家/ピアニストであるルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの死因がある程度解明されたと、Sky News が報じている。

https://news.sky.com/story/what-killed-beethoven-genome-sequencing-of-composers-hair-finds-likely-cause-12840028


ベートーヴェンは1770年にボンで生まれ、20代半ばから後半にかけて進行性の難聴に悩まされるようになり、1818年には機能性難聴となり、1827年にウィーンにて56歳で死亡した。

彼の死因については、過去2世紀に渡ってさまざまな憶測が飛び交っており、一般的には過剰なアルコール摂取によるものであるというのが広く知られている説の一つだったが、今回の調査では、それに加えて彼が遺伝的に肝臓病になりやすい体質であったこと、そしてB型肝炎に感染していたことの3点によるコンビネーションが彼の死につながった可能性が高いという調査結果が出た。
ただし、今回の調査では、ベートーヴェンの難聴や胃腸障害の決定的な原因を見つけることはでず、また彼の難聴の原因が単純な遺伝によるものであるかどうかは判明しなかったとのことだ。

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アルコール摂取が原因であるという説においては、19世紀の習慣で、苦味を隠すために鉛で甘さを加えた安ワインを飲み過ぎたため、という説もあったが、2010年に行われた研究でベートーヴェンの頭蓋骨の一部を調べたところ、彼の頭蓋骨からは通常人間の頭蓋骨に含まれる鉛の量以上は検出されなかったと発表されており、この説は否定された。

この研究の執筆者であるケンブリッジ大学のトリスタン・ベッグ氏は、ベートーヴェンが彼の人生最後の10年間に使用した「会話帳」の記録から、彼のアルコール消費量について「消費された量を推定することは難しいが、彼のアルコール消費が非常に規則的だったことを示唆している」と述べている。

ベートーヴェンの時代の人間の多くは、ベートーヴェンの飲酒量について、19世紀初頭のウィーンの基準と照らし合わせて控えめであったと主張しているが、これらの資料の間には完全な一致はなく、ベートーヴェンは現在においては "肝臓に有害であると考えられる量" のアルコールを摂取していたと思われる。

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トリスタン・ベッグ氏は「もし、彼のアルコール摂取量が長期間に渡って多かったのであれば、彼の遺伝的危険因子との相互作用によって、彼の肝硬変を説明する一つの可能性が示される」と述べており、またゲノムデータから、ベートーヴェンの胃腸の不調の背景には、セリアック病や乳糖不耐症があったとは考えにくいとも述べている。

ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所のヨハネス・クラウス氏は、以下のように述べている。

ベートーヴェンの死因を明確に言うことはできません。しかし、少なくとも重大な遺伝的リスクとB型肝炎ウィルスへの感染を確認することができました。また、我々はより信憑性の低い他のいくつかの遺伝的原因を排除することができます。

更に今回の毛髪の分析から、ベートーヴェンの直径父系に、不倫の末に生まれた子どもが見つかった。研究者はこれを「エクストラペア・パタニティ・イベント」と表現している。

この不倫は、1572年ごろにベルギーでヘンドリック・ヴァン・ベートーヴェンが受胎してから、7世代後の1770年にルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが受胎するまでの間に、父方の直系で起きたものと研究者は考えているとのことだ。

ベルギーの KU ルーヴェン大学の遺伝子系図学者である マーテン・ラームシェアウ氏は以下のように述べている。

DNA データとアーカイブ文書の組み合わせにより、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンの法的系図と生物学的系図の間に矛盾があることを観察することができました。

トリスタン・ベッグ氏は更に、以下のようにも語っている。

我々は、ベートーヴェンのゲノムを研究者向けに公開し、おそらく最初の年代順のシリーズに更に認証されたロックを追加することにより、彼の健康と系譜にん関する残りの疑問がいつの日か答えられることを望んでいます。

既知の病歴を考慮すると、彼のアルコール摂取を含むこれら3つの要因が協調して作用した可能性が高いが、今後の研究では、それぞれの要因がどの程度関与していたかを明らかにする必要があります。

この研究は、学術誌「カレント・バイオロジー」に掲載された。