ペンシルベニア州立大学の研究チームが、特定の空間にのみ音を届ける「可聴エンクレーブ」と呼ばれる技術を開発した。​
この技術により、周囲の人々に音を聞かせることなく、個人が音楽やポッドキャストを聴くことが可能となる。​研究成果は、2025年3月17日に『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された。

この技術は、音波を自在に曲げることができる「音響メタサーフェス(AMS)」というものと組み合わせた2つの非線形超音波ビームを交差させることで、特定の地点にのみ "音を生成" する仕組みだ。​それぞれのビームは人間の耳には聞こえない高周波数(例えば40kHzと41kHz)で発せられ、交差する地点で差周波数(この場合1kHz)の可聴音が生成されるというもの。

研究チームは、マネキンの耳にマイクを設置し、共用スペースでの実験を行った結果、交差点以外の場所では音が聞こえないことが確認された。​

この技術に似たものとして、既に商用化されている「超指向性スピーカー」があり、両技術とも "特定の空間・方向に音を届ける" "プライバシーの高い音響である" という点は共通しているが、超指向性スピーカーが1本の音のビームを発射して直線的に "届ける" のに対し、可聴エンクレーブは 2本の非線形超音波ビームを交差させて、その交差点の空間だけに音を "作り出す" ものとなる。

そのため、超指向性スピーカーは障害物を避けたり音の進行方向を曲げたりはできず、ピンポイントに個人に音を鳴らすのはやや不向きであるが、可聴エンクレーブは「音響メタサーフェス」を用いることにより、音のビームを自在に曲げることが可能であるため、障害物を回避しながら音を特定の場所に届けることが可能となる。​これにより、車内でヘッドフォンやイヤホンなしに各乗員が異なる音楽を聴いたり、美術館や図書館などの公共空間で個別の音声ガイドを提供可能になることが期待されている。
また、可聴エンクレーブは将来的には音の発生点を移動させることにより一人の聴者を追尾することも可能となるのではないかと言われている。

現在は、音量や音質の向上を目指して研究が進められているとのことだ。