英国イスラエル弁護士会 (UKLFI) の圧力で、ガザでの虐殺を非難するアーティストが次々とライブ中止やテロ支援容疑で逮捕…マッシヴ・アタックらが英国政府の検閲を強く批判

海外では、未だ続くイスラエルのガザ攻撃について多くの人々が非難の声を上げており、イスラエル側との対立は益々高まっている。
特にイギリス国内ではそれがかなり顕著で、多くの人々が逮捕されたり、イスラエルによるガザでの大量虐殺を非難するアーティストが告訴やライブの妨害を受けているとのことだ。
特に新進気鋭のアーティストたちは現在、”親イスラエル派” の英国イスラエル弁護士会(UKLFI)による「攻撃的で迷惑なキャンペーン」にさらされており、更には一般人の中でもイスラエルを非難するような言動を取ると「テロ組織を支持している」とされ、逮捕されるケースが相次いでいるとのことで、ネット上ではこのイギリス政府の対応を「ナチス的」「政府による検閲」と指摘する声も多い。
そんな中、今年7月には Massive Attack(マッシヴ・アタック)、Brian Eno(ブライアン・イーノ)、Fontaines D.C.(フォンテインズ・ディーシー)、kneecap(ニーキャップ)は、イスラエルのガザに対する軍事攻撃について声を上げるアーティストのためのシンジケートを結成すると発表している。
 


UKLFI は、イスラエルを非難するアーティストたちの行為に常に目を光らせており、イギリスのビッグフェス「Glastonbury Festival」では、あらゆる差別に立ち向かう姿勢を見せるロンドンを拠点とするパンク・ラップ・デュオ Bob Vylan(ボブ・ヴィラン)が「Death to the IDF(イスラエル国防軍に死を)」と叫んだとして警察に通報、更に BBC に対しても、そのライブ公演の様子を放送したとして警察に通報されている。
その後、UKLFI からの書簡を受け、Bob Vylan は予定されていた複数の公演をキャンセルすることになった。
 

更に、北アイルランドのウェストベルファスト出身のヒップホップトリオ kneecap(ニーキャップ)のラッパー、Mo Chara(モ・チャラ)は、昨年11月、ロンドンのケンティッシュ・タウンに位置する「O2 Forum」での公演中、1980年代初頭にイスラエルに対抗する目的で創設された、レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」を支持する旗を掲げたとして、テロ犯罪で起訴された。「ヒズボラ」は、イギリス政府によってテロ組織指定されており、同組織の支持を示すデモは違法であるとのことだ。
 

ロンドン警視庁は、kneecap が英国議員の殺害を要求し、ハマスやヒズボラを支持しているとする内容の動画について捜査、しかし kneecap は「ハマスやヒズボラを支持したことは一度もなく、いかなる個人に対しても暴力を煽動することはない」と主張、問題の動画は「文脈を無視して引用されている」とロンドン警視庁を非難した。
kneecap もまた、ライブ公演が UKLFI の介入により中止に追い込まれている。また、別のライブ中には、親イスラエル派グループが笛を鳴らすなどして kneecap のライブを妨害しようとしており、その様子を収めた動画が SNS にてシェアされている。
 

なお、Mo Chara の訴訟に関して、8月にはウェストミンスター治安判事裁判所で審理が行われたが、Mo Chara の弁護士は「5月に警察が Mo Chara 被告にテロ容疑を初めて通知した時点で、司法長官は Mo Chara 被告に対する訴訟提起を許可していなかった」として訴訟の棄却を要求。それに対し、検察側は「この手続きは最初の出廷までは必要なかった」と意義を唱え審理は9月まで延期となり、無条件保釈期間も延長された。
審理中には、法廷の外に大勢の群衆が集まり、パレスチナ国旗や新パレスチナのプラカードを掲げたり、「Mo Chara を解放せよ」と叫んだりしていたとのことだが、その中にいた男性の一人は活動家グループ「Palestine Action(パレスチナ・アクション)」を支持しているという疑いで、その場で逮捕された。


「パレスチナ・アクション」とは、イギリスを拠点とし、イスラエル政府に武器を供給する防衛企業の活動を妨害することを目的に掲げている団体で、英クーパー内相は「長年にわたり器物損壊を繰り返してきた」「(2024年以降は)その頻度と深刻さが増している」と述べており、これまでに数百万ポンド」規模の損害が発生していると指摘している。
今年6月には同団体のメンバーの活動家2人が空軍基地に侵入して軍用機2機を損傷させるなどし、同団体はイギリス政府によりテロ対策法に基づきテロ組織に指定され、活動を禁止されたが、クーパー内相によるテロ組織指定の発表の際には、ロンドン中心部のトラファルガー広場に数百人のデモ参加者が集まり、抗議活動により13人が逮捕された。
また、2020年の設立以来、「パレスチナ・アクション」メンバーのうち522人が拘束されており、また7月以降、イスラエルを非難しテロ対策法違反で逮捕された人の数は、合計700人以上にもなるとのことだ。

今月頭には、イギリス・ブリストル出身の音楽ユニット Massive Attack(マッシヴ・アタック)は、この大量逮捕の騒動を受けて、イギリス政府の行動を「醜悪で、最早容認できない」と非難。
 

ガーディアン紙に向けた声明の中で、Massive Attack は以下のように述べている。

この集団行動は、スクリーンタイムにおけるジェノサイド(国民・人種・政治的集団に対する大量虐殺)の渦中に日々を生きているアーティストたちに対し、ある種の連帯感を示すためのものだ。
彼らは業界内や、高度に組織化された外部の法的機関による検閲の厳しさから、その恐怖をプラットフォーム上で表現することに不安を抱いている。彼らは、アーティスト自身やマネージメントチームを攻撃的な法的措置で脅かしている。その意図は明白だ。彼らを沈黙させることだ。

UKLFIの広報担当者は、先月の Massive Attack の公演の中で、イスラエルの行為とホロコーストを比較する内容が含まれていた点、またそれとは別にハマスの元指導者であるヤヒヤ・シンワルの画像が上映されたことから、ユダヤ人とイスラエル人の観客から苦情が寄せられたと述べており「我々は言論の自由と芸術的表現の自由を信じてはいるが、今回のパフォーマンスは一線を越え、観客に深いトラウマを与えたと感じている」とコメント。それに対して Massive Attack 側は、ヒヤ・シンワルの画像に関して「デジタルコラージュの一部であり、そこだけ切り離して文脈から外して解釈すべきではない」と反論している。
 
; exhibió durante su show imágenes de Yahya Sinwar y su familia en los túneles de Gaza

Massive Attack mostró en pantalla durante un concierto una grabación de la familia del líder terrorista abatido de Hamás.

La banda incluyó las… pic.twitter.com/3Vk8eogE6G

— VIS A VIS (@visavistv) June 10, 2025

また、アンビエント・ミュージックのパイオニアで、David Bowie(デヴィッド・ボウイ)、Talking Heads(トーキング・ヘッズ)、U2 といったアーティストのアルバム・プロデューサーとしても知られる Brian Eno(ブライアン・イーノ)も、自身の Instagram に以下のように投稿している。

ガザの状況は言葉では言い表せないほど悲惨だ。我々は、公の場を利用して、そこで起きているジェノサイドと、それを助長する英国政府の役割に反対の声を上げることを選んだアーティストとして、この文章を書いている。

UKLFI が展開する、攻撃的で迷惑なキャンペーンの規模や、音楽業界内でアーティストが心の声を語ることを検閲し、黙らせることだけを目的とした複数の脅迫事件について、我々は認識している。

我々は、こうした検閲の試みに耐えてきたが、他のアーティスト、特にキャリアの初期段階にあるアーティストや、職業的に脆弱な立場にあるアーティストが、沈黙やキャリアのキャンセルに脅かされるのを黙って見過ごすつもりはない。

2023年のハマス主導の攻撃でイスラエル人約1200人が殺害され、251人が人質に取られた事件以降、イスラエル軍による攻撃と食糧不足により、ガザ地区では少なくとも6万1,000人を超える人々が殺害されていると、地元の保険当局が2025年8月5日時点で発表しており、そのうちの1万8,592人は子供、9,782人は女性で、またガーディアン誌は、5月時点のイスラエル軍の機密情報にでは、死者の約83%が民間人だったことが判明しているが、イスラエル側はガザ地区での死者数を発表しておらず「戦闘員約2万人を殺害した」と伝えているとのことだ。
 

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