『クラブでのお仕事』と言えば、音楽を繋いでオーディエンスを踊らせるDJの存在を真っ先に思い浮かべる方がほとんどだろう。だが、実際にクラブに遊びに行くと、DJ以外にもオーガナイザー、プロモーター、音響、照明、映像、クラブのスタッフ、といった多くの人達によってパーティが作り出されていることに気付かされるだろう。海外のトップDJなどは、専属の演出チームを引き連れて来日することも多い。そのDJごとのプレイを最高に引き立たせることができる演出チームが影で頑張っているからこそ、オーディエンスは音に没頭して踊ることができるのだ。

今回フォーカスしたいのが、VJ(ヴィジュアル・ジョッキー)というお仕事。クラブに遊びに行く方であれば、DJについでフライヤーに名前が掲載されていたり、VJブースにて仕事に没頭している彼らの姿を目にしたりと、VJの存在を認識する機会は多いはず。しかし実際にVJがどんな仕事をしているのか、あまり良く知らないというiFLYERのユーザーの方々も多いのではないだろうか。

そこで、HATEGRAPHICS名義で都内のクラブを中心に活動するVJアサヌマ氏に、VJの役割や現場からのリアルな目線で見た日本のクラブシーンなどについて伺った。



Q.VJについて簡単にご説明をお願いします
簡単に言うと、DJがプレイする音楽に合わせてそれにマッチした映像・イメージを次々と切り替えていくお仕事です。映像を操って音楽や照明と即興でセッションする、という感覚ですかね。マッチする映像・イメージはDJによって千差万別ですし、音楽のジャンルもパーティによって全然違うので、本当に多種多様なVJさんがいらっしゃいます。自分はごくシンプルな映像を400個程度用意して、DJがプレイする音楽に瞬間的に映像を当て込んで、音が重なったら少しずつ変えていったり、照明の光が緑色だったら映像も緑色で合わせてみたり、ストロボに合わせて裏打ちで映像を入れてみたり…といった、比較的地味な演出を得意としています。


Q.VJを初めてどれくらいですか
いつから始めたかが定かではないのでなんとも言えないんですが(笑)、おそらく10年位は経っていると思います。多分23〜24歳位から始めました。年齢がばれますね。


Q.VJを始めたきっかけは何でしょうか
「美大で映像を作ったりしていたんですか?」とよく聞かれるのですが、僕は社会人になってから始めました。VJの方からイベントのお誘いを受けて遊びに行き、暇そうにしていたら「VJソフトを触ってみる?」と声をかけていただいたのがきっかけです。当たり前なのですが知識も何もない状態でやってみても当然上手くいくわけもなく…でも、長い時間やっているとたまに偶然に音とハマる瞬間があって、空間の指揮者にでもなったような感覚っていうのかな…まあそれは錯覚なんですけども(笑)、それが病みつきになりましたね。その後はただひたすらVJが上手くなりたい、と思い、紆余曲折あり現在に至ります。


Q.VJという存在を認知し始めたのはいつ頃からでしょう
僕がクラブに遊びに行くようになって色々な方々と交流を持ち始めたのは15、6年前なのですが、その頃には既にVJというものがポピュラーな存在になっていたし、僕自身ももちろん“VJ”というお仕事については知っていました。でもその当時は、骨董通りにあったMANIAC LOVEや西麻布のSpace lab YELLOW、渋谷のModule、青山のLOOP、代官山のAIRなどの、VJがあまり出演していない箱によく行っていたので、VJが何をやっているとか、どういう意識でどういう意図で演出をしているのかなどの深いことはあまり考えた事がなかったです。その後、WOMBやageHaなどの大箱に行って「06S」や「CLASH」等のパーティでVJの演出を見た時に、そこではじめて映像を意識するようになりました。


Q.VJ中に気をつけていることは何ですか
もうひとりの自分がフロアにいると仮定して、どうすれば気持ちよく踊れるかを常に意識することですね。つい気持ちが入りすぎて変にいろいろ頑張ってしまい、結果ダンスフロアが明るくなり過ぎるのが、踊っていて一番興ざめしてしまうかな…と。いかにお客さんに(映像を)意識させずに違和感のない空間を作っていくかを常にイメージするように気をつけています。あと、VJはミックスが肝だと思っているので、点で考えるのではなく線で考えること、抑揚をつけて起承転結を一晩かけて上手く作ることを気をつけています。それから、当たり前なんですけど酒に潰れない、溺れない!(笑)


Q.これまでに一番印象に残っているパーティはありますか
代官山のUNITで行われた80KIDZさんのパーティで、Ed BangerのRITONが来た際にVJした時は、今までにない位上手に映像をハメる事ができたので印象に残っています。いつの間にかパーティが終わっていた、というくらい時間を忘れていました。UNITでのVJは印象に残る事が多いですね。
 

Q. 現在はどういったパーティでVJをしていますか
Q'HEYさん主催のテクノパーティ「REBOOT」、LOUNGE NEOでやっているDJ KENSEIさん主催のパーティ「Down Beat Session」でレギュラーとしてVJをしています。他にはRUBY ROOMの「南蛮渡来」にループ映像を提供したり、不定期ではありますが80KIDZさんのLive SetやGroup2というロックバンドのVJ、そしてちょっと変わった所だと水墨画家のCHiNPANさんのライブペイントに併せてプロジェクションするアートユニットでの演出等、色々なジャンルでやっています。


Q. 音楽のジャンルによって演出は変わるのでしょうか
テクノにはミニマルな映像を音に合わせて切り替えていく照明的な映像演出が合うと思います。低音と高音を瞬時に頭の中で分解し、それぞれ映像を当て込んで、ちょっとずつ切り替えていくパズルのような感覚でやっていますね。ミスってもそのミスに動じずに、わざとそのミスを繰り返してなんとなく数が合ったところで切り替える「わざとだよ?」みたいな強がりをよくします(笑)。逆にロックやヒップホップ、レゲエなどは音に合わせて映像を変えていてもあまり意味がないし、ちょっと絵的にうるさくなるので控えめにしています。その音楽、カルチャーにあまりにも関係ない映像、例えばUK ROCKがかかっている時にアメリカの街並みが出てきてもおかしいですよね。ちょっと格好悪いので、あらかじめ準備や音楽の知識が重要だな、と痛感します。ハウスミュージックはどちらの要素も持ち合わせているので、正直かなり難しいです。



Q.アサヌマさんが感じるクラブ業界の現状を教えてください
とりあえずVJの現状に限っていえば、アサヌマさん以外、他のVJを知らないので宜しくお願いします、とかVJに知り合いがいないから紹介して下さい、と言われることが結構よくあるのですが、何か違和感があるな…と感じます。クラブイベントをやる上で絶対DJは必要ですが、必ずしもVJを入れなきゃいけない、というわけではないので、オーガナイザーがもっと具体的に映像をイメージしてそれに沿ったVJをブッキングしたり、クラブ側がイメージを共有して色々なVJを紹介できたり、もっと双方の理解やVJへの関心が深まればいいなと思っています。あと、昔からクラブで遊んでいる年上の世代と最近の若い世代の溝を感じることが多いような気もします。対抗心を持つのは素晴らしいと思うんですが、もう少しお互い歩み寄れたらいいな、と。


Q.尊敬するVJはいますか
沢山いるので挙げていったらきりが無いのですが「DEVICEGIRLS」「So In The House」「M.M.M」この3組はVJを始める前に見て本当に格好良いな、と思った人たちなので僕のヒーローです。あとはREBOOTで一緒にレギュラーVJとしてやっている「anemonerecords」「Akio.N」も尊敬しています。


Q.機材は何を使っていますか
アナログ出力の場合はパソコンとP10(映像サンプラー)から出力したものをV4-EX、V8、V4などのミキサーでミックスし、最終出力にKAOSSPAD ENTRANCERというエフェクターをつなぎます。VJソフトはKrakenというソフトを使っています。デジタル出力の場合はパソコンからV1-HD、V40-HDなどのミキサーをつないでいますね。


Q.不満に感じることはありますか
映像作品が素晴らしい=VJが上手、と解釈されてしまう事はちょっと嫌ですね。例えば、ギターの名手が必ずしも作曲の才能があるという訳ではないのと同じように、映像作家さんとVJって似て非なるものだというのは昔から思っています。綺麗な映像を作る技術があっても映像を上手にミックスできるかどうかは関係無いと思うんですが、あまり理解されない(苦笑)。求められていることがVJ(ヴィジュアル・ジョッキー)という名前とは関係ないものもあったりして、例えば「このDVDを流してください」「たまには自作の映像を入れてもいいですよ」なんて言われたときには、人知れずブースの隅で隠れて泣いています(笑)。


Q.これから挑戦したい事はありますか
ミュージックビデオを作ってみたいですね。飲み友達に優秀な人達がいっぱい居て、そういう人たちと円山町界隈で一緒に飲んでいる時なんかに「あのMV見た?」とか「あのバンドのあの曲はこういう映像がいいんじゃないかな」みたいな話をしているんですけど、僕には特筆すべき作品がないのでちょっと悔しくて(笑)、これはもう自分もやるしかないなと。VJってやっている事があまり残らないんですよね。自分が出ていたパーティの動画をwebで見つけてもDJさんしか映ってなかったり、自分でカメラに収めてみたりもするんですが、クラブでの映像ってやっぱりその空間以外で見てもしっくりこないんですよ。元々ミュージックビデオの制作には興味があったし、作品として残したいなって思っています。さっき言った不満の所で、映像作家に引け目を感じているならグチグチ言ってないで自分もそういう活動をしていけばいいんじゃないかと決心しました。ようやくふんぎりがつきました(笑)。本格的な撮影は今までやった事はなくて、基本ずっと2DのグラフィックでVJをやってきたんですけど、今後そういった撮影技術も学んで色々やっていけたらいいなと思います。


Q.VJに向いていると思う人はどんな人でしょうか
あらゆる音楽やカルチャーに興味があるのが一番だと思います。あとは、ある程度の社交性があって柔軟な感性の持ち主、それでいてオタク気質の人かな。表現者でありつつも裏方という認識も持ち合わせて…あとは一晩中起きている事が苦にならない人(笑)。

 

■イベント情報

JUSTICES @下北沢GARAGE
9月17日(日)
OPEN : 12:00 / START : 12:30
ADV : ¥2,000 DRINK + ¥500
DOOR : ¥2,300 DRINK + ¥500


Down Beat Session @LOUNGE NEO
9月21日(木)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥2,000 / 1DRINK
WF: ¥1,500 /1DRINK
GIRLS: ¥1,000


VALS @VENT
9月22日(金)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥3,500 / FB discount : ¥3,000


Circus presents Norman Nodge @CIRCUS Tokyo
9月29日(金)
OPEN : 22:00
ADV : ¥2,500
DOOR : ¥3,000


Interview:Yurie