1960年代のカルト集団の主導者にして連続殺人鬼…Charles Manson(チャールズ・マンソン)。彼が世間を騒がせたのは、既に何十年も昔、遠い過去の話であるため若い世代の読者にはあまり馴染みなかったかもしれないが、先日の彼の死去に伴い一気にメディアが沸き立ったので、今では誰もがその名を知るところとなったのではないだろうか。
ヒッピーカルチャー全盛期に悪名を轟かせたこの連続殺人鬼、実は獄中にいながらして長年にわたって様々なアーティストたちに影響を与えてきたミュージシャンとしても知られている。

ビートルズを汚した連続殺人鬼、チャールズ・マンソン

売春婦の母親から生まれ、育児放棄され孤児院で育ち、12歳頃から犯罪に手を染め始めたチャールズ・マンソン。1967年以降、サンフランシスコへ移住した後、ヒッピーカルチャーやサイエントロジー、ヨハネ黙示録、ヒトラー等に影響を受けて、更にLSDやマジックマッシュルームを日常的に摂取することを推奨し、カルト集団である「マンソン・ファミリー」を作り出した。「テス」や「戦場のピアニスト」等の作品で知られるロマン・ポランスキー監督の妻、女優のシャロン・テートらを殺害したことがきっかけでその名が一気に世に広まったが、どの事件においてもチャールズ・マンソン自身が殺害に直接関与してはおらず、犯行はマンソン・ファミリーの信者たちを指示する形で実行されていた。

チャールズ・マンソンはただの連続殺人鬼ではなかった。殺害現場には「ヘルター・スケルター」と血文字で書かせ、マンソン・ファミリーを先導して人種間の諍いを引き起こし、戦争を引き起こそうと画策していた。
「ヘルター・スケルター」とは混乱した状況を意味する英語で、日本でもお馴染みのビートルズの楽曲タイトルを引用したものだった。チャールズ・マンソンはヘルター・スケルターの歌詞をハルマゲドンの予言と曲解し、妄想に駆られて様々な犯行をファミリーに唆した。

The Beatles - Helter Skelter

まさかの獄中アルバムリリース!

 ​チャールズ・マンソンは音楽家としての顔も持っていた。殺人事件を起こす以前には、ビーチ・ボーイズデニス・ウィルソンらのアーティストたちとの交流もあったとのこと。デニス・ウィルソンはビーチボーイズとチャールズ・マンソンをコラボさせようとするが、プロデューサーであるテリー・メルチャーに約束を反故にされ、果たされることはなかった。チャールズ・マンソンはテリー・メルチャーに恨みを抱き、後に信者を使って彼を殺そうとするが、彼が住んでいた家にはその時シャロン・テートらが住んでいたため、人違いで殺されてしまったとのことだ。


チャールズ・マンソンが逮捕された直後には、マンソン・ファミリーの中心的な信者たちにより「The Family Jams」というアルバムがレコーディングされ、チャールズ・マンソンは参加していないがクレジットには彼の名前も表記されている。

また、チャールズ・マンソンは「Lie」「Trees」「One Mind」「Air」等のアルバムを何枚もリリースしており、「Live From San Quentin」等、獄中でのライブやセッションが収録されているものもある。
Lieには、女性コーラスや民族音楽を取り入れたあの時代のアングラな香りがプンプン漂うサイケデリックでアコースティックなアシッドフォークが、その他のアルバムはゆるゆるとフォークギターを弾き語る曲調のものが多いが、時に唸るように歌ってみたり、また聴く側に「チャールズ・マンソンが歌っている」という前知識が頭にあるせいか、一見穏やかで牧歌的に聞こえる彼の歌声が時に薄気味悪く感じることも。歌詞についても色々と意味を考え出すと、やはり薄気味悪い。
しかし、このLSDでラリって誇大妄想に駆られた男の歌には、なんとも言えない味があるのも確かである。イカれたカルト主導者の連続殺人鬼が作った曲だから…ということで嫌厭されがちだが、その一方で多くのアーティストから評価されていることにも頷ける。

Charles Manson - Lie: The Love & Terror Cult


Charles Manson - Air


Charles Manson - Angels Fear To Tread - One Mind (2005) w/ lyrics


New Charles Manson Album - Trees

チャールズ・マンソンの曲は、マリリン・マンソン、GGアレン、ガンズ・アンド・ローゼスらアーティストによって何度もカバーされている。チャールズ・マンソンの死去に際し、マリリン・マンソンはチャールズ・マンソンの“Sick City”のカバー曲の動画をTwitterに投稿しており、KISSのポール・スタンレーらから顰蹙を買っている模様。ちなみにマリリン・マンソンというアーティストネームは、女優のマリリン・モンローとチャールズ・マンソンから取って名付けられたというのは有名な話である。

Marilyn Manson - Sick City (Charles Manson cover)​


Written by きのや