クラブに関わる職業に携わる仕事人にお話を伺うインタビューシリーズ、今回お話を伺わせていただいたのはクラブイベントを撮影する「カメラマン」として活躍するLENNYBOOKさん。カメラマンも、クラブイベントには欠かせない仕事の一つであり、クラブでの楽しい思い出を記録する重要な仕事である。

場合によってはアーティストに付いて回ったり、クラブの専属カメラマンとして様々なシチューエーションに対応し、ベストショットを撮り続ける彼らの心構えを知るべく、今回はまだ23歳という若さにもかかわらずSkrillexJonas Blueなど様々なアーティストから信頼を置かれ、国内外で活躍するクラブカメラマン、LENNYBOOKさんにインタビューを行った。
 
カメラは何歳の時から始めたのですか?
13歳の時からですね。もともと母親が20代のときにカメラマンをやっていて、自分が不登校だった時にその仕事の手伝いに行ってたんです。お寺の滝の前で日本舞踊を踊るというドキュメンタリーの撮影だったんだけど、母が小さいカメラを貸してくれたのでそれを使って色々撮っていたら、その写真を褒めて採用してくれて、それが自信になってカメラを始めました。母親のDNAもあるんじゃないですかね(笑)。


クラブのカメラマンとして活動を開始したのはいつ頃ですか?
最初は18歳の時です。でもそれはお仕事としての「最初」で、初めてクラブで撮影したのは15歳の時です。 僕はバリ島で生まれて東京で育ったんですが、中学校と高校はバリ島で過ごしていました。バリ島だと10代の時からクラブに行くのが当たり前の文化なので、DJやミュージシャンの友達がいて、その友達に声をかけてもらって撮影をしたのがきっかけでした。


クラブカメラデビューはバリ島だったんですね!東京でDJをするようになったきっかけは何ですか?
18歳の時に日本に帰ってきた時に、もともと知り合いだった2WastedというDJユニットが出演するWOMBのイベントの撮影をお願いされて、彼らの撮影チームとして付いて回ってたのが最初です。

※2Wasted...GeorgeとAkiraによる2人組DJユニット。東京を中心にNYやハワイなどの人気クラブに出演し、今年はULTRA JAPANにも出演している。

クラブ以外の場所でも撮影のお仕事をすることはありますか?
今は基本的に無いですね。クラブでのカメラマンの仕事が最低でも週に1回あります。他には、昼間にあるとしたらアーティストのアー写やブランディング用の撮影など、音楽に関連する仕事が多いですね。
結婚式での撮影のような仕事も年に数回はあるのですが、その場合は事前にクライアントが欲しい写真の雰囲気を打ち合わせして、前撮りもあって、とにかく準備に時間がかかります。クラブでは、現場入りしてその場でチャチャっと打ち合わせして撮影、というようなやり方です。クラブと結婚式の撮影は、だいぶ流れが違いますね。

機材は何を使っていますか?
一眼レフはCANON/EOS 5D Mark IIIを使っています。レンズは24mm-70mmでF値が2.8の明るいレンズをメインで使っています。レンズはだいたい4本持っていきます。あと、ストロボは2つ使っています。1つは多くのカメラマンが普通に使っていることが多いフラッシュですが、フラッシュが苦手な人も多いので、もうひとつリングライトというものを持ち込んでいます。他のカメラマンを見てもリングライトを持っていく人は珍しいですね。

ご存知の通り、クラブは暗い場所なので、暗い場所でも明るく撮れるようなカメラ本体とレンズが必要です。でも僕が18歳の時はそういう機材がとても高くて、大学の学費ぐらいしました。僕は大学に通わずにカメラや機材につぎ込むぐらいカメラが好きなんですが(笑)。

僕が写真を撮る上で一番気にしているのは、実際に目で見て美しく見えたものを、写真で忠実に再現することです。僕が使っているのは、そのイベントの光景を思い出している時の脳内のイメージになるべく近い写真を撮るために最低限必要な機材です。


レタッチ(修整)を行うことはありますか?
レタッチで色や光を調整することはありますが、顔をキレイにする、といったレタッチはしません。僕は1つのイベントにつき70枚、良い写真が多いときは140枚ぐらい採用してクライアントに提出します。そのため、顔をキレイにする編集までしていると、膨大な時間がかかるんですよね。レタッチに使うソフトはPhotoshopかLightroomです。それが一番使いやすいですね。
クラブのカメラって、照明を上手く使うことが重要なんです。写真を見る側としても、そういう写真が一番見たいんじゃないですかね。


クラブではどのようなタイミングを狙ってレンズを向けていますか?
まず、クラブのカメラマンは盛り上がっている時にレンズを向けているようじゃ遅いんです。カメラマンに限らずクラブにいる時間が長い人は、フロアの雰囲気を見るだけで、盛り上がり始めるタイミングも自然と分かって来ると思うんですね。だからそれを予測してそのタイミングに差し掛かる前からシャッターを切ります。そのため、撮影する枚数は自然と多くなるんですよね。


クラブカメラマンとして一番大変だった体験があれば教えてください。
ハロウィンですね(即答)。僕がメインで付いて回っている2Wastedというグループが数年前、1日で夕方から朝までに6カ所でDJが入ってて、各現場について回った時ですね。ハロウィン期間の1週間で21カ所のクラブに行きました。本当に大変でした(笑)。


逆に、一番楽しかったイベントは?
Skrillexの撮影をした時です。2年前に来日した時に、彼はクラブを貸し切って友達を集めてシークレットパーティをやっていたんですが、それに2WastedのAkira経由で誘ってもらったんです。その時に、ちょうどSkrillexのカメラマンと僕の誕生日が同じで意気投合したのもあって、カメラマンをやらせてくれたんです。スゴかったのはSkrillexが3時間半ぐらいずっとDJしてたんですが、フロアにいるのはたった19人だけ。しかも、バーをそのまま買い取られていて、お酒が飲み放題でした。そのパーティーでの撮影に際して、本人から「フラッシュを使わないで欲しい」という注文があったんです。それがきっかけで、リングライトを導入しました。

今後、カメラをしてみたいイベントやアーティストはいますか?
今年は2WastedがULTRA JAPANに、僕の友達のDJがEDC JAPANに出演した際にそれぞれカメラマンをやらせてもらったんですが、本当に楽しかったので、大きなフェスでの撮影がしたいですね。僕の強みはライトを上手く使うことなので、それをULTRAのメインステージとかでも試してみたいです。

クラブカメラマンから見た日本のクラブシーンについて、何か感じることはありますか?
長続きする人が少ないですね。プロモーターもDJも、イベントも、少なくとも5年以上は続けるべきだと思います。その時代の流れに沿って流行は変わるし、DJもカメラマンもクラブも最初から大儲けできる仕事ではなくて、むしろ大変な仕事だから「楽しいものを作る」ということが大事だと思います。アフロマンスさんの作るイベントみたいに、作る側も参加する側も楽しそうなイベントが増えると良いですね。

※アフロマンス...「泡パ」や「マグロハウス」など画期的なパーティを仕掛けるパーティクリエイター。

クラブのカメラマンの業界についてはいかがですか?
カメラがどんどん身近になって、カメラをやる人が増えて、カメラマンとして活動する人も増えて来ると思います。でも、ただ撮るだけのカメラマンは必要とされる数が限られているので、センスがあってちゃんと会話できる人だけが残っていくと思います。自分は照明を上手く使うのが得意なんですが、そういう個性のあるカメラマンが残ると思います。


どのような人がクラブカメラマンとして向いていると思いますか?
とにかくお酒と人が好きな人ですかね(笑)。あと好奇心を常に持てるかどうかが非常に重要です。何事にも興味を持つこと。常に良いものを探求することですね。

LENNYBOOKさんはフリーランスで活動していますが、フリーランスでクラブカメラマンとして活動する大変さはどのような点でしょうか?
「自由でいいよね」とよく言われますが、一回ミスをすると仕事がなくなるというプレッシャーはあります。データが消えてしまったり、アーティストを撮り忘れたりするのはカメラマンとして致命的なミスです。待ち合わせ時間に遅刻するのも、信頼問題としてやってはいけないことです。フリーランスの仕事は一本橋を渡るようなもので、途中で油断したり諦めたりするとすぐ落ちてしまいます。だから最後まで気を抜いたらダメです。あとは、書類を書いたりするのも全部1人でやらなくてはいけないのも大変ですね。
逆に、何かに縛られることなく一緒に仕事をしたいクラブやアーティスト、企業と自由に仕事ができるのがフリーランスの良いところですね。


最後に、LENNYBOOKさんのクラブカメラマンとしての今後のプランを聞かせてください。
僕が東京でクラブカメラマンをやるのは2020年の東京オリンピックまで、と決めています。なぜならば、2020年が一番東京のクラブシーンが盛り上がる時期だと思うからです。2020年まで東京のクラブシーンで自分の腕を磨いたら、その後は海外に旅に出て、世界で通用するか試してみたいと思っています。南米あたりで風景を撮るものアリですし、ドバイのクラブでカメラマンをやってるかもしれないです(笑)。
 
●プロフィール
カメラマン/アーティスト
インドネシアのバリ島生まれ。東京を中心として活動するフリーの写真家、アーティスト。TV、CM、映画、音楽などマルチメディアでプロデュースを行い、同時にフォトグラファーとしても活躍していた日本人の母・裕子と日本料理店の経営者であり絵も嗜んでいたインドネシア人の父・スダナの間に生まれる。2つ上の兄は音楽プロデューサーであり、自身もプロのカメラマンという家族全員がアーティストの家系。
ハワイや東京で幼少期を、小学校時代は東京で過ごす。12歳のとき、遊びで日本舞踊を撮影したのをきっかけにカメラの面白さに気づきのめり込んでいく。13歳から18歳まではバリ島で過ごし、撮影を行う傍ら絵画(キュービズム)の制作を行い、グループ展も合わせて2年間で出展した作品は36点にも及ぶ。高校を卒業後、フリーのカメラマンとしてのキャリアをスタートさせた。RedbullやAvex、Sony musicといった大企業からも依頼を受け、これまでに撮影した人数は1万人を超える。​愛称は「レニー」​。

写真展
2015 グループ展『瞬美』

2017 第65回 東京藝術大学 卒業作品展
個展 『ORACLE』

受賞歴
2017年イベント カメラマン アワード
受賞
Event Photographer Awards 2017
Experiential events Nominated

LENNYBOOKホームページ