EDMのカルチャーの根底として受け継がれている「PLUR(プラー)」の思想。ここ数年でEDMシーンに足を踏み入れた人には馴染みの無い言葉かもしれない。そして、EDMシーンを長年見てきた人たちの中でもそもそも「PLUR」というものが何を意味しているのか、知らないという人もいるだろう。

PLURはどのようにして生まれたのか



PLURを唱え始めたのはアメリカでテクノ・ハウスのシーンを築き上げたDJのFrankie Bones(フランキー・ボーンズ)。現在のダンスミュージック・フェスの原型とも言えるレイブのカルチャーをアメリカに持ち込み、そのレイブを数万人規模にまで成長させた。

そもそもレイブというものは倉庫や屋外などのクラブとは違った空間で突発的に行われるため、チラシやメディアを使わず、口コミだけで人を集める。そういった経緯もあってレイブはコミュニティ化し、参加者同士の一体感や友情のようなものが重視されていた。だが、あるレイブで、DJ中にケンカしている客を見かけたFrankie Bonesはスピーカー越しで

If you don't start showing some peace, love, and unity, I'll break your fucking faces.
(お前ら!平和と愛と団結を示せないなら、そのクソみたいな顔をぶん殴るぞ)

と怒鳴りつけた。ここに出て来たPeace(平和)Love(愛)Unity(団結)に加えてRespect(尊敬)をまとめて「PLUR」と呼ばれ、レイブに訪れるヒッピーやレイバーと呼ばれる人々の思想となった。そしてレイブに関する記事やネットでPLURというフレーズが使われたことで広く浸透し、レイブの系譜を継いで生まれだダンスミュージックフェスでもこの思想は受け継がれている。

Carnageがこの思想に反発


もちろんCarnage(カーネージ)の曲を聴けば、彼が EDM カルチャーの型に従順な人ではないことは明白だ。グアテマラ出身のトラップ系プロデューサー、Carnage は ULTRA や EDCなどの EDM 系フェスに多数出演し、EDM業界でも高く評価されているアーティスト。だが彼は EDMカルチャー特有の PLUR の思想を嫌っている。

2月19日、Carnage の Twitter で突如、PLUR に対して否定的で過激な発言を Twitter 上で繰り返した。
 

「これまで会ってきたなかでPLURを体現しているという人の多くが、物事に対して否定的な人だ」
 

「PLURは死んだ」
 

「おれの一連のツイートに対して怒ってる人たちは、まさにおれが話題に上げてたヤツらなんだぜ。笑っちゃうだろ」

Carnage が PLUR の思想を持つ人たちを挑発し、それに対して反発する人たちをまとめて一気に叩くというかなり横暴なやり方にはなっているが、彼の発言の裏にはEDMというカルチャーが大きくなる一方で PLUR の思想を固く持った人や「EDM PURIST」と呼ばれる原理主義的な人たちによって可能性を狭めているというメッセージが込められているようにも思える。

さらにその直後、 CarnageSteve Aoki とタッグを組み「Plur Genocide ft. Lockdown 」をリリース。
 

Carnageの発言にFrankie Bonesは何を思ったのか

PLUR の始祖でもある Frankie Bonesはアメリカの EDM メディア "EDM Sauce" のインタビューで

1990年初頭のニューヨークは多くの人たちにとって暗黒時代のようなもので、何も無い中からレイブカルチャーを作り出すしかないと思っていた(80年代から90年代初頭にかけてニューヨークの治安は最悪だった)。我々は音楽を通してムーブメントを起こし、自分たちのイベントに来た人たちハッピーな気持ちにしたいと思っていた。だからこそ、CarnageのようなGenocide(大虐殺)を掲げた人は元来望んでいなかった。
PLURはレイブカルチャーにおける普遍的なものなのだ。(一部抜粋)

と話している。つまり PLUR はレイブカルチャーを体現するものであり、PLUR を否定することはレイブカルチャーを否定することになる。

Carnage の時代の変化と共に思想も変えてゆくべきだという主張に対して、Frankie Bones の、レイブカルチャーのルーツを守り抜くべきだという双方の主張に筋が通っているため、どちらが正しいかを決めることはできない。しかし実際に現在もPLUR の信条が "EDMを愛する人たち全員の信条" ではなくなっている現状である。だからこそEDMシーンは今後どうあるべきか、ぜひEDMを愛するみなさんで議論を交わして欲しい。

Written by: So-on