いよいよ日本で改正される風営法。まだまだ内容の詰めといった点では予断を許さない状況ではあるが、渋谷区観光大使ナイトアンバサダーにZeebra氏が決定し、アムステルダムの”Night Mayor”、「夜の市長」とのサミットに登壇。

「クラブとクラブカルチャーを守る会」の活動等をご評価頂き、昨日付けで渋谷区観光大使ナイトアンバサダーに就任する事となりました!今年六月の風営法改正を受けて更に盛り上がる渋谷を、より素敵な街にするお手伝いです!よろしくお願いします!by Zeebra 

これを受け、Zeebra氏がアムステルダムの”Night Mayor”、「夜の市長」ミリク・ミラン氏との第1回”Night Mayor Summit”に登壇した。ここからは同席したダースレイダー氏より詳しく解説を頂いているので是非一読してほしい。
 
昨年の秋、アムステルダム市長ファン・デル・ラーン氏と共にミリク・ミラン氏が来日した。ミラン氏はアムステルダムの”Night Mayor”、「夜の市長」である。これは正確に言えば公的な役職ではなくNGOの役職なのだが、市長と行動を共にする程に信頼を得ている立場でもある。世界でも先進的なナイトライフを誇るアムステルダムの「夜の市長」とはどんな人物なのか?どのような仕事をしているのか?風営法改正の論議を皮切りに、日本のクラブシーン、ひいてはナイトライフ・シーンに関して様々な議論をしていたクラブとクラブカルチャーを守る会(以下、CCCC)を代表して、僕とDJ AMIGAの二人でミラン氏に話を聞き行った。

その対談の詳細は僕の別記事を参照(http://clubccc.org/column)していただきたい。この中でミラン氏が語っている、第1回”Night Mayor Summit”が今年の4月23日にアムステルダムで開催された(http://nachtburgemeester.amsterdam/night-mayor-summit/)。

6月23日に風営法が改正される。これは世界のナイトライフにとっても良いニュースだと思う。そうミラン氏に伝えたところ、サミットで10分のスピーチタイムを用意してくれた。登壇するのはZeebra。法改正を見据えた動きは日本各地でも活発化しているが、その中で東京都の渋谷区は長谷部健区長の元、渋谷をパリ、ロンドン、ニューヨークと並ぶ街にしていく、という方針で様々な施策を試みている。その施策の一つが、渋谷の夜のエンターテインメントに焦点を当てた夜の観光大使、「渋谷区観光大使・ナイトアンバサダー」(以下、ナイトアンバサダー)の新設だ。Zeebraは長年ヒップホップ・アーティストとしての実績に加え、最近のCCCC会長としての精力的な活動もあり、このナイトアンバサダーの一人に就任したばかりで、サミット登壇がナイトアンバサダーとしての初任務となる。僕は窓口担当として同行することになった。

4月22日、アムステルダムのスキポール空港に到着した。夕方開かれた歓迎会からすぐに議論はスタートし、各都市がそれぞれの考えや立場を下にした意見を述べる。その中でも日本に対する関心は非常に高く、どう法律を変えたのか?行政、住民との交渉はどう展開したのか?など質問が相次いだ。ミリク・ミラン氏が歓迎会でのスピーチで、サミットの目的を”Night Mayor”制度の普及、そして世界各都市の夜の文化、夜の経済の交流を目的としたネットワークの構築、更には各都市が抱える問題点を解決するためのワーキング・グループ設立だと宣言する。どこの都市にも昼の生活と夜の生活があり、これが互いにどう共生し、許容しあっていくか?そのヴィジョンをどう描くのか、も重要なテーマである。

この日、様々な興味深い話が聞けたが、印象深かったものを紹介しておこう。ネバダ砂漠で開催されているバーニングマンの運営のスティーヴン・ラスパ氏からサンフランシスコの近況を聞いた。クラブなどが営業する繁華街の騒音問題は世界共通だが、サンフランシスコではクラブなどの人が集まる施設から半径数平方キロメートルキロを「騒音区域」に指定し、その範囲内での住民の騒音苦情を禁止しているという。つまり、その範囲はある程度の騒音を覚悟して住む地域であり、騒音がイヤならば騒音区域の範囲外に住むように勧告するというのだ。その代わり、騒音区域内の家賃を安くし、若いアーティストや繁華街の文化を楽しみたい人が集まれるようにしている。これは都市計画の話で、住民の住み分けが上手く行けば、全体のプラスになるという発想だ。
また、アーティストが購入出来る安いマンションを市が用意し、「アートを定期的に制作している」という条件が守られている限りはそこに居住出来る。「アート」表現は即座に収入に結び付くとも限らないので、市が積極的にアーティスト活動を支援する。こうして若いアーティストが市に集まることで、市の文化が発展し、引いては市の経済や人的資産にフィードバックされていく、という考え方だ。正直、日本の現状とは隔世の感があるが、もちろんサンフランシスコでも粘り強い交渉を経て、こうしたシステムを少しずづつ構築していったという。

この日の夜はアムステルダムの夜をガイドしてもらった。パラディソというユダヤ教会をクラブに改装した、市内最大のクラブではヒップホップイベントを開催していた。Zeebraはここでオランダ国営テレビの取材を受ける。日本のアーティストがアムステルダムの夜をどう感じるのか?日本の夜はいま、どういう状況なのか?Zeebraを中心にサミットを取り上げた7分ほどの特集が24日にオランダ国内で放送されている。また、デ・スクールという廃校をクラブ、レストラン、カフェ、スポーツジムに改装した店にも行った。アムステルダムでは最近24時間営業のライセンスが発行され、それを使った朝から晩までのライフスタイルを支えるコンセプトの店だ。教室を利用した図書室やコーヒーを挽く部屋もあった。クラブのダンスフロアは真っ暗でスモークが焚かれ、大勢の客がテクノ・ミュージックで遊んでいた。



4月23日サミット当日。開始時刻の午前10時に会場に入るとまだゆっくりと準備している。この辺りの時間感覚もオランダ流なのだろう。別で来ていた齋藤弁護士らと一緒に席に着き、30分遅れてでサミットはスタートした。

”Night Manifesto”という夜の文化宣言を世界に先行して発表したサンパウロのアナ・ディーツ氏がサンパウロで文化と行政の関係性に基づいたスピーチ。公共の場所を占拠して主張する手法を中心に、どう文化的価値を市民側からアピールするか?集まって意見を言うことが自然になっている風景が伺える。アムステルダムのデベヴェロッパーからは、都市設計をする際に昼と夜をどう意識していくかのアイディアが多く提案された。


・運河にかかる橋の照明を夜だけブルーライトに変える、騒音を視覚化するグラフをプログラミングして広場などに設置、一定以上の騒音が出た時にのみ対応するようにするなどなどだ。

一時SNSなどで話題になった「踊る信号機」もアムステルダムで試行されている。ベルリンはクラブ先進都市として、すでに市がクラブシーンを観光の目玉として扱っている。ベルリン・クラブ・コミッションは15年の歴史を持ち、100人のスタッフが常駐して組織運営をしている。

行政とタッグを組む際のポイントは「対話」。常に同じテーブルに着き、対話を絶やさないことの重要性を訴えた。
ベルリンでもやはり騒音問題は深刻で、行政、住民、クラブシーンで一つ一つの課題を話し合いで解決しているという。

スピーカーが次々登壇する中で、いよいよZeebraの順番が来た。

原稿は一切用意せず、ラッパーならではのフリースタイル・スピーチ。自己紹介後に少しビートボックスを披露すると会場は大盛り上がりだった。このスピーチの模様はyoutubeで観ることが出来る。
全編英語、日本でもっともクラブが集まる街、渋谷のナイトアンバサダーとして、日本が法改正を機に国際的な「夜の文化圏」への仲間入りを果たす準備が整ったことを報告し、PLAY COOLというマナーキャンペーンを展開することで住民と行政に共生を提案していく方針を伝えた。
実はこの動画は僕が撮影しているのだが、会場がワッと盛り上がるのを背中で感じることが出来て感慨深かった。その後、取材や質問がZeebraに殺到したこともスピーチの成功を裏付けている。


この後、アムステルダム市長のファン・デル・ラーン氏が登壇、夜22時までスピーカーが次々とそれぞれの主張を展開した。インドのオーガナイザー、シャインデラ・シン氏のスピーチ中、ボンベイで最近スカート丈を規制する法律が可決された、と紹介すると会場からは「法律の変え方なら日本に学べ!」と声が上がる場面もあった。なお、このシン氏のスピーチは大変印象深く、”World's Biggest Guest List”というイベントではオランダのHardwellをDJに招き、収益を全てゲスト登録した子供たちの教育資金に充てた。※iFLYER ニュース参照:ゲストリストの世界最高記録を突破したHardwell!)これにより8万人の子供たちの10年分の教育資金が賄われたというからスケールが大きく、夢がある。文化事業の成功例として日本にも紹介したい事例だと強く感じた。

スピーチタイム以外にもワークグループに分かれたトークセッションが3ラウンド行われた。僕とZeebraは”Night Mayor”制度についてのグループに参加し、様々な都市の状況を元に議論に参加した。例えば任期は2年~4年、立候補は自由だったり推薦制だったり、選考はネット投票だったり、それと選考委員会との組み合わせだったり、と様々なパターンがあった。パリでは正式に議会が”Night Mayor”を選任、公職として任に当たっているという。また、夜に事業を営むメンバーから成る「夜の議会」も開催されているという。ジュネーヴでは最近朝4時から朝8時まで営業時間許可が延長され、チューリッヒは若者への文化的価値の普及に努力していて、ロンドンでは最近”Night Mayor”が誕生したものの、五輪以降に5割近くのクラブが規制により閉鎖に追い込まれている。各都市がそれぞれに課題を抱え、それを克服する方法を考えている。ただ、一番強く感じたのは・・・どの都市も問題解決に当たる意識レベルは非常に共通していて、それは日本から来た我々もまた変わらないということだ。翌日もクラブを観に行ったりしたが、あっという間に3日間のアムステルダム滞在は終了した。

6月の風営法改正を機に、日本も堂々とこうした世界の都市とナイト・シーンに関する議論に参加していける資格と能力があることはわかった。先行している都市は、すでに都市設計も含めた視野で行政と共に夜の文化、夜の生活を社会に定着させていくことを考えている。音楽のみならずアートや文化の価値を強制ではなく、共生させていく為の議論は活況を増すばかりだ。日本の夜も、また踊りだす、その先の未来に希望を感じる為にもまた一歩を踏み出した気分である。(テキスト:ダースレイダー)