オルタナティブ・ヒップホップ界の新星、Aminé(アミーネ) が新曲「​Campfire ft. Injury Reserve​」をリリース!
相変わらずのノリの Aminé が、ピンク色のボブカットのカツラを被ってスーパーカーのガルウィングから顔を出したりしており、途中「rural」の発音について謎のトークが繰り広げられる謎のMV。更に奇才ヒップホップトリオと評される Injury Reserve とコラボしているという、なんとも濃いめの一曲となっている。
 

…ところで、オルタナティブ・ヒップホップって何?という方と、もっと Aminé ​が知りたい!という方は下もチェック。(※長いけど)
 

脱・マッチョイズム、奇妙でオサレなHip Hop

Hip Hop という音楽ジャンルは、もともと根底に黒人文化があり、貧困や暴力から脱出し成功者になるというストーリー性が付随していることが多い。Hip Hop というジャンルの持つイメージの最もトラディッショナルでオールドスクールなものとしては、やはり 金!女!車! そしてビジュアル的にも、いかつくクールに、ゴージャスに! Bling-Bling!という感じである。

もちろんハードコアで正統派の Hip Hop イメージはクールだし、それを受け継ぐアーティストは圧倒的多数だが、しかし、今はそういった Hip Hop ばかりではなく、様々な派生 Hip Hop が音楽シーンの中に生まれ、育ってきている。

1980年代後半から ぼちぼち台頭し始めた、Alternative Hip Hop(オルタナティブ・ヒップホップ)もそういった派生 Hip Hop ジャンルの中の一つだ。Alternative Hip Hop は、同じ Hip Hop と言えど、より実験的だったり、アート色が強かったり、独自の世界観を表現していたりと、とにかく通常の Hip Hop とは一線を隠したものである。

同ジャンルのアーティストとして代表的なところだと、90年代に半ばに人気を博した The Fugees(ザ・フージーズ)等が挙げられる。
 

そして最近のオルタナティブ・ヒップホップの代表格と言えば、 Tyler, the Creator(タイラー・ザ・クリエイター) ではないだろうか。
 
 

レイプや死姦などをテーマとした初期作品のリリックの過激さが影響し、オーストラリアやイギリスへの入国が禁止されてしまったという過去があるものの、それでもマッチョさを感じさせないのが Tyler, the Creator。

暴力的な描写すら、ぎこちなさや寂しさ、不器用さの暴走の果て…といったこじらせ感が満載で、現代っ子な印象を全面に押し出してきており、オリジナリティとクリエイティビティにこだわった音作り、喘息の吸引器を持った写真が使われているなんとも言えない雰囲気の『WOLF』のジャケット……と、とにかく枠に収まりきらない Hip Hop アーティストである。


また Tyler, the Creator がデザインに携わるアパレルブランド「ODD FUTURE」「Golf Wang」は、ポップでキュートな中にも気持ち悪さが混在しているデザインが特徴で、音楽ファンばかりではなくファッションピープルからも注目されているブランドだ。


Tyler, the Creator が率いるオルタナティブ・ヒップホップ集団 OFWGKTA (Odd Future Wolf Gang Kill Them All/オッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール) は、レズビアンである Syd tha Kyd(シド・ザ・キッド/The Internetのボーカル)やゲイの Frank Ocean(フランク・オーシャン/R&Bシンガー)が在籍していたりと、マッチョイズムが強く、割とゲイに排他的な Hip Hop の世界において、かなり先進的かつアート寄り、マイノリティも大歓迎な印象を受ける。
 

Hip Hopカルチャー新世代、Aminé

そんな Hip Hop シーンに新星が現れた。ラッパー/ソングライターの Aminé(アミーネ)である。


郵便局員の母、教師と通訳をする父を持つ、エチオピアとエリトリア人移民の息子として、現代ではヒップスターの聖地として知られるポートランドで生まれ育った。
彼のラップキャリアは高校時、ライバル校への dis をラップで作り、校内ラジオで流したところ好評を得たところから始まり、卒業後に本格的にラッパーを目指すようになったという。ポートランド州立大学に通いながら、Hip Hop の雑誌である Complex やレーベルの Def Jam 等でインターンをしたり、本格的にラップにうちこんだりという生活を送っていたとのこと。

2016年、シングル「Caroline」のリリースでメジャーデビュー。更に自身がメガホンを取った同トラックのMVをリリースしたが「Caroline」はリリース当初、米国 Billboard Hot 100チャート96位だったものの、評判が評判を呼び、後には11位まで上り詰める。この曲は3度もプラチナム認定されている。
 

更に2017年には、AminéはアメリカのHip Hopマガジン「XXL」が要注目のニューカマーHip Hopアーティストを選出する「XXL Freshman 2017」にも選出されており、既に本国アメリカではかなりの人気を誇るアーティストである。
 

陽気にジョークでオシャレに表現、
ミレニアル世代のHip Hopアーティスト

Aminé の MV では、車に箱乗りになっても刑務所のシーンでも、ワルっぽさは演出されていない。ちょっぴり斜に構えた姿勢と常にチルな雰囲気を漂わせている辺りは今時の若者そのものといった雰囲気で、Hip Hop ファンばかりではなくもっと幅広い音楽ファンに親近感を与えるアーティストではないだろうか。

日本でも、以前とあるお笑い芸人が顔を黒塗りにして黒人に扮し非難の的となってしまったことが記憶に新しいが、Aminé は「REDMERCEDES」の MV の中で、肌を白塗りにして白人に扮し物議を醸した。Aminé が演じるのはカーディーラーのセールスマン Thad と、そこにやってくる白人の顧客である DeAndre という2人のキャラクターである。


Aminé は、この MV の中で白人と黒人の立場が微妙に逆転している世界を描き、人種間問題を陽気に皮肉っている。
 

MV の最初の会話のシーンで黒人女性が「DeAndre」に対して「Dと呼んで良い? ホーミー」と尋ねると、DeAndre らは「彼女はレイシストだ」と言い、それに対して黒人女性が「私はあなたの皮膚の色を気にしないわ」と言うやり取りがされていたり、更に会話中に「National White Association for Care and Pleasure」(「National Association for the advancement of colored people」という有色人種をサポートする協会を捩ったジョーク)が登場したりと、白人と黒人の立場が逆転するとこうなる、というブラックジョークをリアルかつユニークに表現。Hip Hop に良くある人種問題への問題提起方法も、真っ向勝負のバイオレンスで泥臭さのある表現に頼るのではなく、カラッとした冗談で鋭く差してくる辺りがミレニアル世代の Hip Hop アーティストらしさを感じさせる。


ちなみに、クエンティン・タランティーノが好きだと公言する Aminé は、映画やファッションの仕事もしたいと考えている模様。確かに、自身がディレクションしている Aminé の MV はどれも才能に溢れていてユニークであり、MV 内にて Aminé が着用している服はカッコイイ。“Caroline” で黄色のハーフパンツにパルプ・フィクションのTシャツを合わせているのも洒落ているし、ひょろりとした体躯に合わせたTシャツとハーフパンツのサイズ感、寝癖のようなドレッドもイカしている。


バナナが好きらしいAminéのMVには、常にバナナやバナナを連想させる鮮やかな黄色が登場する。販売されている彼のアーティストグッズにもバナナモチーフのものが多いが、Aminéがバナナブレッドを作る、というジョーク・クッキング動画まで YOUTUBE に上がっている。
 

日本でも徐々に人気が高まってきている Aminé。来日公演の予定はまだないが、おそらくそう遠くない未来に初来日公演が期待できるアーティストだろう。

Written by きのや