台風12号による風雨で、夜間のテントサイトではテントが吹き飛ばされたり水浸しになった人もいた2日目の夜。そこまで被害を被らなかったキャンパーの中にも、テントを叩く雨音に不安な一夜を過ごした方は多かったことだろう。しかし、朝になって雨脚は徐々に弱まり、3日目のフジロックは無事に始まった。夜にはすっかり雨も上がり、最終的には清々しい空気の中で2018年のフジロックを締めくくることができたのではないだろうか。
 


今年4月にリリースされたデビュー・アルバムが数々のレビューサイトで高く評価されている、コロンビア生まれの24歳、Kali Uchis(カリ・ウチス)。一体どのようなパフォーマンスをライブにて見せてくれるのか、ホワイトステージには期待に胸を膨らませたオーディエンスが詰め掛けた。Kali Uchis はタンクトップと T バックに網タイツのようなパンツを履き、ほぼ下着姿のような状態でステージに登場。ソウルフルな歌声にサルサのようなダンス。"Just a Stranger" や "Tyrant" など、最新アルバムからの楽曲を中心に演奏され、妖艶に歌う Kali Uchis の姿が印象的だった。またバンドの演奏の正確さとパワフルさが彼女の魅了をより引き出していたように見受けられた。


Anderson .Paak(アンダーソン・パーク)のライブが始まる頃には、雨も上がって晴れ間が広がり始めた。彼の底抜けに明るい笑顔には、晴れが良く似合う。Anderson .Paak のグルーヴ感満載なライブは、Hip Hop、ファンク、ジャズと様々なジャンルを股に掛け、更にラップ、歌、ドラムと様々な得物を操り、ひたすらファンキーな時間を提供してくれる。心地良い歌声を披露しながらも完璧なビートをドラムで刻むそのスキルは、完全に常人離れしたスキルである。ツアーバンドである The Free Nationals(ザ・フリー・ナショナルズ)の巨漢の黒人キーボーニストはその風体からは想像もできないような繊細な指先でシンセサイザーを操り、ボコーダーを介した歌声を披露して、ライブを更に引き立てる。Anderson .Paak はもちろん、The Free Nationals の面々のスキルもずば抜けたものだったが、観客はライブに呆気にとられて見惚れる、というよりは、卓越したスキルを見せつけられていることすらうっかり忘れてしまうほど、とにかく楽しくてカッコいい、エンターテインメント性に溢れた惚れ惚れするようなライブだった。それを裏付けるように、ライブを見守る観客たちの顔も、Anderson .Paak が乗り移ったかのような明るい笑顔で始終満ち溢れていた。間違いなく、2018年のフジロックのベストアクトの一人と言っても過言ではないだろう。

Ⓒ Tsuyoshi Ikegami​

フェスティバルに出演することがほとんどない Bob Dylan(ボブ・ディラン)が日本のフェスティバルに出演するということで、非常に注目度が高く、日本全国から老若男女が彼を見に集まったグリーンステージ。演奏が始まる度にオーディエンスからは歓声が上がり、更に Bob Dylan が歌い始めるとそれを上回る大歓声が沸き起こったが、それも彼の発する言葉全てがノーベル文学賞なのだと思えばと納得できる。名曲の数々が惜しみなく演奏されていたが、どれも原曲とはかなり異なるアレンジがされており、聴き応えのあるライブとなった。



3日目のグリーンステージのトリをつとめた Vampire Weekend(ヴァンパイア・ウィークエンド)。メンバーが1人脱退し、新たなメンバー4人を加えた7人編成となった Vampire Weekend は、2013年の Green Stage 出演時よりも人数が増えた分、パワーアップしたパフォーマンスを期待していたが、それすら軽く上回るような素晴らしいパフォーマンスで、バンドとしてネクストレベルに到達してるように思えた。良い意味でスカスカというか、音に空白感が感じられるサウンドが彼らの特徴の一つだが、それを損なうことなく音数を増やして、絶妙なバランスを維持しつつ、途中で原曲にはないソロを入れたり、全員でジャムセッションのようなアレンジを加え、さらには自身の曲に Thin Lizzy の「The Boys Are Back In Town」と The Beatlesの「Here Comes the Sun」をマッシュアップするなど、オーディエンスを1秒たりとも飽きさせないライブとなった。ライブの最後には、ゲストに HAIMDanielle Haim が登場。彼女が参加した "Obvious Bicycle" ではオーディエンスの合唱が起こり、この曲にマッシュアップで Dusty Springfield の "Son of a Preacher" を持ってくるというセンスの良さに関心させられた。来月にはニューアルバムもリリース予定の  Vampire Weekend。このライブを観た人は、ますます新譜が楽しみでしょうがなくなってしまったのではないだろうか。

@Tsuyoshi Ikegami​