レポート
“ココロに響く歌”というテーマで開催されたこの日のライブは、川元清史の新春のライブ!
川元清史(以下、Kiyoshi)はそのライブのトリを飾る形で登場。Kiyoshiにとってこのライブが2012年最初のライブであり、多作では2009年秋以来の2年半ぶりとなる。
Kiyoshiにとって、今年のスタートにふさわしいすばらしいライブとなった。
一曲、一曲その模様を見ていくことにしよう・・・
「AOZORA」
ライブは、ピアニスト武田による、優しいピアノの音色で幕を開けた。
1曲目の「AOZORA」のイントロだ。
「AOZORA」は、タイトル通り明るい「青空」が思い描かれるような、希望を感じる楽曲。
これを軽やかに歌いこなしながら、しっかりと観客ひとりひとりの目を見て語りかけるような説得力を持っているのがKiyoshiの特徴だと改めて感じる。
この日登場したKiyoshiは、いつも通りのシックなステージ衣装に、こちらはめずらしい眼鏡姿。
間奏でピアノの武田と目を合わせて小さくうなづきあう様は、
1曲目の手応えとともに、Kiyoshiと武田との信頼関係を物語るようで、見ているこちらも引込まれる。
「AOZORA」を歌い終わるとメンバー紹介。
「メンバー紹介をします、ピアノ・武田淳也! ・・・以上のメンバーでお送りします!」
もちろん客席から笑いが起きる。
関西出身のKiyoshiならではの、茶目っ気ある方法で、観客席をあたためることも忘れない。
「また明日・・・」
2曲目は、この日初披露の「また明日・・・」という楽曲。
「今日の日のために新しい曲を作ってきました」
「少年時代に戻ったような気持ちで作った」「今日初めて披露します。聴いて下さい」。
幼い日の郷愁を誘うような、静かな優しさあふれる楽曲。
歌詞には「おうちへ帰ろう」などのやさしい言葉が使われているが、決して子供っぽくなく、大人だからこそ歌える歌かもしれない。
この歌をKiyoshiは、抑えめのトーンでしっとりと歌い上げた。
「深海魚」
3曲目は、新作CD『Tenderly』から、禁断の恋愛を描いた「深海魚」という曲。
ブルーがかったグリーンの照明が、まるで本当に深海にいるかのような雰囲気を醸し出すステージで、
情感たっぷりに歌い上げるKiyoshiの表現力が際立つ。
さほど広くはないステージではあるが、左右すみずみの客席まで届けようとするがゆえなのか、この曲でKiyoshiはよく動いていた。
ステージ上を動きながら、さらに天を仰いだり観客ひとりひとりをしっかり見つめたりしながらの熱唱。
声量の強弱もよく効いていて、本当に表現力が多彩だ。
一気に、会場はしっとりとした雰囲気に包まれた。
「静かなまぼろし」
一気に盛り上がったところで、次の4曲目は松任谷由実のカバー曲。
アルバム『流線形'80』に収録されている楽曲「静かなまぼろし」が披露された。
これはKiyoshiが長年ライブナンバーとして歌ってきた楽曲だという。
「街を歩いていて偶然、昔の恋人と出会ってしまうという内容」「年々、歳を重ねるたびに、自分の中で育ってきている歌です」。
これはKiyoshiの計算なのか、それとも自然に身に付いていることなのか分からないが、
前の曲「深海魚」と打って変わって、あまり動かず、静かにたたずむように歌い上げる。
その落差がとても印象的で、引き込まれる。
楽曲の主人公の、少し呆然と昔を懐かしむような心情を表しているかのようだ。
黄色と白のライトの中で、高音も伸び伸びと歌い上げ、思わず聴き入る客席。
しんみりとした空気がフロア中を支配したかのようだ。
歌唱後、「しーんとしていいんですよ、そういう曲なんですから!(笑)」
・・・またも客席を温めてくれた。
「Stargazer」
5曲目は、『Tenderly』から、「Stargazer」が歌われた。
本人いわく、
「去年自分の気持ちを振り返って、その思いを作詞家さんに反映させてもらい書いてもらった曲」
「自分の想いを出すのは少し照れもあるが、そろそろ年齢的にも、言葉にして行ってもいいかなと」
実際に聴いてみると、
曲自体は軽やかなタッチであるが、その中に本人の前向きなメッセージが込められているのがよく分かる。
おそらく、本人の心根の優しさや前向きさが、この歌に表れているのだろう。
ハイライトは楽曲後半の、無伴奏のソロ部分だったことは間違いない。
もともと歌の上手いヴォーカリストであることは分かっていたが、この日、声がフロア中にのびのびと響き渡っていた。
あたかも、ヴォーカルという楽器を自在に操っているような感じだ。
なお、3曲目の「深海魚」もこの「Stargazer」も、CDのバンドアレンジと異なるピアノオンリーのアコースティックバージョンでの演奏だった。
そういった別アレンジが聴けることも、ライブならではの楽しみと言えるだろう。
「if ever you're in my arms again」
ライブ告知をはさんで披露されたこの日最後のナンバーは、
Peabo Brysonの80年代のヒット曲「if ever you're in my arms again」。邦題は「愛をもう一度」。
なんとピアノの武田が生声でコーラスを入れている。
洋楽曲では時々武田がマイクを使ってコーラスを入れているのを見たことがあるが、
この日は設備の関係だったのだろうか、生声で、Kiyoshiと武田がお互い顔を近づけ合って声を響かせる様子が、
非常にライブ感あふれ、また、2人の、演奏にかける気持ちの強さのようなものが伝わってきた。
そして何と、
Kiyoshiはこの楽曲で、歌いながらステージから降りて、客席の中にまで入ってきて歌唱した。
会場を盛り上げる最高のパフォーマンス。
トリであった今日のライブ、最後まで残ってKiyoshiの歌唱を楽しみにしてくれたお客さまひとりひとりへの深い感謝の表現であるように見られた。
客席ひとりひとりの目を見て語りかけるように歌い、客の手をとり握手をしながら歌う。
これこそKiyoshiの“熱いハート”の表現なのだなあと、深く感じ入った。
最後のナンバーとしてふさわしい、Kiyoshiの熱さと、すがすがしさ。
それが本日のライブのしめくくりとなり、なんともいえない良い後味の、すばらしいライブを堪能できた。
(ライブレポート 霜田ミイ)