──アルバム「BLACK MOON RISING」を最初に聴いて思ったのは、想像していた以上にバラエティに富んだ内容だということ。どの楽曲も非常にキャッチーですね。

ありがとうございます。今回は壮大なストーリーやコンセプトがあるんですけど、それ以上に単曲自体で聴いてもよいものにしたかったんです。しかもサウンド面では、アンドロイドのTeddyLoidを最新のサウンドやフレンチエレクトロという形で表現してるんですけど、黒い月にいるテディ少年は自分のルーツや本作の制作中に聴いたオールドロックの中から印象に残っているものを自分なりに具体化してるんです。

──中にはギターロック的な要素もあり、これまでのTeddyさんとは違った色合いも感じられます。Teddyさんはこれまで幅広いジャンルのアーティストとコラボしてきましたが、そこからのフィードバックもあるのかなと感じました。

僕も今までいろんなアーティストとコラボレーションさせてもらいましたが、やっぱりすごく刺激になるんですよね。自分の中に眠っていてものを引き出してもらったり、セッションで新たなものを得たりしたのがこのアルバムに活きてるのかもしれません。

──それにしても不思議ですよね。2008年にTeddyLoidとして活動を始めた頃はエレクトロミュージックに強い刺激を受けて、ご自身もそういった音楽を目指していたと思うんですけど、本作に収められているような新機軸の楽曲をレコーディングすることになるなんて想像できましたか?

まったく考えられなかったですね(笑)。本音を話すと、当時考えてたものでは1曲目の「Inception」......この曲はフレンチエレクトロ調でBPMも110という当時からやりたかったことなんですけど、それ以外の曲は当時なら想像できなかったものばかりじゃないかな(笑)。ギターサウンドだけじゃなくてボーカル曲もそうですし、あとはクラシックの要素も当時はまったく入れてなかったですし。

──どれも大枠ではダンスミューミックですが、ポップミュージックとして通用する楽曲もたくさんあります。そういう意味ではエレクトロシーンのみならず、いろんな場所に出ていって勝負できる作品でもありますよね。

それは強く意識しました。やっぱり僕もメジャーでやるということは意識していて、耳に残るようなサウンドも作りたかったし、言葉で伝えたいっていう気持ちもあったから日本語で歌詞を書いてみたし、そういうところがいわゆるキャッチーさにつながっているのかも。「Without You」にしても今までのマイナーコード中心の曲作りから一変して、地球に戻るシーンを明るく表現したくてメジャーコードを充ててみたわけですから。

──このアルバムのプロジェクトは昨年8月、15分の大作「BLACK MOON RISING」のフリーダウンロードから始まったわけですが、アルバムのストーリーはこの時点には完成していたんですか?

序盤の半円形ドームでの生活の部分はすでにあったんですけど、それ以降は曲とともにできたものです。やっぱり作りながら考えていきました。
だからこのストーリーの結末は、楽曲によって導き出されたと言っても過言ではないのかもしれません。

──楽曲の方向性についてはどうですか?

すべては「BLACK MOON RISING」から始まっていて、あの15分の中にこのアルバムのすべての要素が入っていると僕は思っているんです。女性ボーカルが入っていたりとか......僕のボーカルは入ってないですけど、クラシックの要素だったりギターの音だったりブレイクビーツだったり。「BLACK MOON RISING」という曲ができてから、逆にこのアルバムのアイデアっていうのがどんどん出てきました。

──その15分の大作のパーツがアルバム収録曲の1つひとつへと進化していくわけですね。

はい。フリーダウンロード版をある意味リミックスしたようなもので。その後配信された「pt.1」「pt.2」のような形にブラッシュアップしていって、今回のアルバムで初めてちゃんとしたタイトルを付けて仕上げた。その進化の過程は、フリーダウンロードの頃を知ってる人には面白かったんんじゃないかな。

──完成までの過程を見せていくことは躊躇しなかった?

僕はどんな制作においてもそのときにできる最大の努力をしているから、最初の段階で聴いてもらったものも恥ずかしいとは思わないんです。

──もしかしたらこの一連の流れは、デモ版を完成版に進化させるというよりは、1つの完成した楽曲をさらにブラッシュアップして別の楽曲として完成させるという表現のほうが近いのでしょうか?

そうかもしれない。僕が音楽を始めた当初からリミックスやエクステンデッドといった文化がすでに当たり前だったので 、組曲を切り出していって別の曲を作るっていうことは何も不自然だとは感じてなかったんです。このアルバムの制作を通じて、僕はダブという文化を始めて知ったんですけど、ちょっと気が早いけど次のアルバムではそれに通じるような ......例えばある曲のボーカルや楽器を差し替えたり、ほかのアーティストとコラボレーションしたり、そういったことにトライしたいですね。1stアルバムが完成したばかりですけど、もう次の構想が浮かんでるんです。

──そうなんですね。お話を聞いてると、アルバムが1枚完成したから終了ではなくて、フリーダウンロードの楽曲がどんどん進化していくのと同じで、このアルバムを起点に何か新しいことが始まっていくような、常に何かが地続きで進んでいるような印象を受けました。

アルバム後半のストーリーはまさに今後の展開を占うような内容ですし......月に連れ てこられたテディ少年は最初こそ恐怖や孤独を感じていたんですけど、TeddyLoidとの交信を通じてだんだんと安心感を覚えるようになっていきます。そして黒い月の女王と対面した際に、黒い月に連れてこられた理由を説明されるんです。黒い月というのは地球上のネガティブな部分を吸い取っている人工衛星であって、それが限界を超えてホワイトアウトしそうになっていることから、ミッションに耐えたテディ少年が黒い月の使者として地球に脱出するんですけど......実はここに「ラブ&ピース」という裏テーマも込められていて。黒い月の女王が60年代のアナログやオールドロックの映像を通してテディ少年にその思いを伝えて、そこで感じたことをTeddyLoidにメッセージとして託すんです。そして「音楽は誰にも邪魔されないからこそ、強い武器なんだ」という思い......“BLACK MOON THEORY”を持ってテディ少年は地球に脱出するんです。僕は音楽って地球上なら誰でも聴けるし、どんな場所で、どんな環境で聴いても音楽の本質はちゃんと伝わると思っている。そういうことをこのアルバムを通じて伝えていきたいんです。

  
(c)Miho Satake

──そういったことをエレクトロミュージックの申し子のようなTeddyさんが考えているというのが、また興味深いですね。今の「ラブ&ピース」という裏テーマを聞いて、実はすごく腑に落ちるものもあって。アルバム全体に流れる空気感に、80年代末から90年代前半にかけての「セカンド・サマー・オブ・ラブ」という、ダンスミュージックを通じて人々が“Unite”できたあのムーブメントに共通するものを感じたんです。

なるほど。僕はコンピュータで音楽を作ってますけど、周りからは温度を感じないと言われているコンピュータからも愛を感じるんですね。音楽で一番信頼できるパートナーだし(笑)。パソコンも携帯も使う人によっては武器にもなるけど、僕はそれらを使って人々の感情を揺さぶるような音楽を作って“Unite”したい。そういう意味では共通する部分を感じますね。

──感情を揺さぶるという点においてもそうですが、Teddyさんが作る音楽ってどれも人間らしい温かみが感じられるん ですよね 。 去年Daft Punkが「Random Access Memories」という人間味あふれる作品を発表しましたが、TeddyさんはDaft Punkとは違う方法論でその人間味に近付いているような気がしました。

僕はDaft Punkがあのアルバムを通じて「ロボットが音楽に人間味を戻すんだ」と言っていたことにとても衝撃を受けて。それと同じように、今回の「BLACK MOON RISING」というアルバムは単なる打ち込み作品ではないんですよね。テディ少年とTeddyLoid、人間とアンドロイドが生み出した作品なんで、その両方のよさを出したかったんです。ビートの4つ打ちにしても、ただフレーズをコピーすればいいんじゃなくて、耳で聴いて強弱を付けてるし、日によってはビート感も変わってくるし。そこはバンド演奏と一緒ですよ。あともう1つ......今回はエレクトロであっても泣けるものが作りたかったんです。Daft Punkの新作なんて、まさにそういう作品でしたし。

──わかります。本当に“エモい”と思いましたよ、このアルバムを聴いて。

ああ、うれしい。僕、ゲームが大好きなんですけど、たまにそのストーリーに泣けて途中でテレビを消しちゃうときがあるんですよ(笑)。

──本当ですか!?

そうなんです。そういうところからも影響を受けてるから、エレクトロでも単に冷たい音楽にならなかったのかもしれないですね。

Text by西廣智一

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Release Information

【リリース情報】
1st AL「BLACK MOON RISING」
2014.9.17 ON SALE
[初回限定盤] (CD+DVD)
品番:KICS-93103
価格:\3,000+税

[通常盤] (CD ONLY)
品番:KICS-3103
価格:\2,500+税

【収録曲】
01. Inception
02. Don't Wanna Lose This Feeling
03. Black Moon Sympathy
04. Go Away
05. I Can't Stand Up Alone
06. Teddy Boy Strut
07. The Killing Field
08. 黒い月の女王のテーマ
09. Black Appolo Will Soon Take Off
10. White Out
11. Faded Pictures
12. Let The Muzik Play
13. Without You
14. Forever Love
00. Black Moon Rising

TeddyLoid「Black Moon Sympathy」MV



TeddyLoid「Forever Love」MV



TeddyLoid公式HP
http://www.teddyloid.com/
TeddyLoid特設サイトページ
http://teddyloid-special.com/