もし歌声がメロディーを奏でるため、 そしてヴァースやコーラスを表現するための手段にしか過ぎないと言うのであれば、エリー・ゴールディングにそれは伝わっていない。エリーのデビュー・アルバム『Lights』を聴けば、優れた楽器演奏者と同じように、歌声で様々な効果をもたらすことが可能だと知るだろう。つまり、他のサウンド・ディテールと同じように、記憶に残るその極めて独特な歌声も、曲の中で大切な役割を果たしているのだ。連鎖的で完全に合致しながら、上昇してはさっと舞い降りていくその層状のボーカルは、比較的単純な原点から生まれた曲に、記憶に留まるような複雑さを与える。観察や記憶、そして感情がメロディーとリリックの引き金となり、エリーはそこに音と歌詞の物語を作り上げ、それは同時に華麗で重苦しく、情熱的で謎めいている。ただステージに上がり、求められた役割を果たすために歌うシンガーとは違って、エリー本人も認めるように、彼女は曲作りもレコーディングも強迫観念に取り付かれたようにすべてを注ぎ込んで行う。そうでなければやる意味がないから、と彼女は言う。
しかし、どんなに熱心なファンも、『Lights』を夢中になって聴いていた人も、エリーのニュー・アルバム『Halcyon』を聴いたら驚くことは間違いないだろう。音楽、ボーカル、そしてリリックもすべてが激しい新作は、失恋から抜け出し希望へと踏み出し、孤独感から将来に対する新たな信頼を手にしたエリーを表し、サウンドは交互に大袈裟なものから呆然としたもの、そして断固としたものから不確かなものへと変わっていく。まるでエリーの心が落ち込み、そして立ち直っていくのが聞こえるかのように。オープニング・トラックの「Don’t Say A Word」から「Dead In The Water」まで、『Halcyon』にはエリーが経験した激動の2年半が詰まっている:ブリット・アワード、『Lights』のリリース、恋愛、失恋、スランプ、新たな恋愛、ホワイトハウスと春に挙げられたある結婚式でのパフォーマンス、アメリカで300万枚の売上を果たしたナンバーワン・ポップアルバム、自らの不安と向き合う、アーチストとしての才能を深く掘り下げ再びみつける、育った田舎へ戻り改造された納屋にてレコードを制作、人の心をひきつける並外れたソングライターであることを証明する。
当然ながら(『Halcyon』からも分かるように)、その旅は決して楽なものではなかった。「すべてがマンネリ化してしまった時期もあったの」と、エリーは言う。「書けなかったし、読むこともできなかったし、経験したことから何かを得ることもできなかった。普段は道を歩いただけで、色んなことを吸収できるのに。だけどスランプで全くなにも書けない時期もあったの。付き合っていた彼と別れた瞬間にすべてが変わった。田舎へ行って、ただひたすら曲を書いたわ。一つの扉を閉じて、新たな扉を開けないとダメだって、頭の中で決心したの。それができた瞬間に、書きたいものがどれだけいっぱいあるのかに気付いたわ。」
エリーが育ったヘレフォードシャーからすぐの所で、ジム・エリオット(キッシュ・モーヴ、カイリー、レディホーク)と共同プロデュースした『Halcyon』(*穏やか、平穏)の内容は、そのタイトルと矛盾している。「このタイトルは、少し皮肉っぽいのかも知れない」と、エリーは認める。「だって、結構悲しいアルバムだから。その一方で、楽しい曲はとっても楽しげなの。それにね、Halcyonってとっても美しい言葉だと思うの。」
ロンドン中心地にある自宅マンションにてリラックスしながら話すエリーは、『Lights』以来彼女の人生に起こった様々な出来事を、より大きな視野から見ることができるようになった。しかし、最初からそうだった訳ではないと話す。「ずっと長いこと様々な場所を旅していると、“どう?”って訊かれても、“うん、よかった”としか答えられない。だってあまりにも色んなものを目にして経験したわけだから、すべてを説明することなんてできない。ずっとそういった状況にいたけど、今はこうしてこの素敵な部屋でゆっくりと過ごしている。でもね、今まで生きてきた中で、本当に最高の時間と最悪の時間を経験したの。不思議な出来事がいっぱいあったわ。」
もしエリーが『Halcyon』を通じてその時期を直接、又は遠回しに伝えているとしたら、その他にも実体験という枠を超えた曲も披露している。「My Blood」、「Joy」、「Figure 8, Explosions」、「Don’t Say a Word」、耐えられないほどに優しい「I Know You Care」、息をのむような「Atlantis」では、自分の経験したことが伝えられている。そして「Dead in the Water」では、夫婦が海辺を穏やかに散歩しているときに、夫が潮に流されてしまうという悲惨な記事からインスピレーションを得て、物語が伝えられている。“私は水の中にいる。今でもあなたを探しながら”とエリーは歌い、自分が感じた心痛を掘り下げている。そして彼女は、「さすがにアルバムをこのタイトルにすることはできなかったけどね」と、ジョークを言う。
アルバム制作に取りかかっていた期間は、疑い深く、打ちひしがれていたエリーだったが、制作プロセスは信じられないほどに勇気を与えてくれたと話す。「何よりも変わったことは、人を感動させようとか、自分がやっていることを正当化しないとダメだ、って思わなくなったこと。今でも自分を責めたり、自分に厳しかったりしたら、それはかなりの問題よね。マネージャーにも前はよくそれで叱られたわ。自分を信じてもいいんだって思える段階まで来れたし、自分の音楽に対して自信を持てるようになったの。」
『Halcyon』からのファーストシングル「Anything Could Happen」はエリーらしいトラックに仕上がっている。魅力的な強さと激しさ、力強いサビが特徴的なトラックの幸福感溢れる楽観さに、疑いと曖昧さが忍び寄る。エリーはくり返し“そうなるって分かるの”と歌い、不確かさが例え迫ってきていても、彼女は粘り強く確信にしがみつきながら未来に向けて大きく一歩を踏み出す。しかし、それは過去の痛みを肩越しにちらりと振り返りながらしていること。その対立する直感は彼女の曲作りを特徴づけ、それはまさに自分との闘いになっている。もし最終的に希望が運命論に打ち勝つのだとしたら、その勝利は彼女が苦労をして手に入れたものであることは間違いない。恐らく、その二重性は、作品の多面性の中で最も彼女の音楽を魅力的にさせるものであり、最初からファンたちを魅了させた要素でもある。
17ヶ月前にロンドンで結婚式を挙げた若い2人のファンは、彼女に披露宴の後に開かれるパーティーで歌うようにお願いした。世界が注目するその日、2人は少しの間だけプライベートな時間を与えてもらった。大きな扉から入室するケンブリッジ公爵夫婦率いるロイヤルファミリーの前で、ステージの上に立てるミュージシャンはそうそう無い。しかし、2011年4月にエリーと彼女のバンドは、バッキンガム宮殿でそれを体験した。数ヶ月にも渡る極秘の交渉が行われ、エリーは黙秘を誓った。彼女は自分の曲、そしてカバーを数曲(マイケル・ジャクソンやティナ・ターナーの曲、そしてもちろんエルトン・ジョンの「Your Song」を含む)を新婚のカップルのために歌い、パフォーマンスの後は招待客たちとの時間を過ごした。忠誠心と配慮から細かいディテールについて話すことはできないが、エリーはその経験を夢のようだったと言う。「前日にリハーサルをしに宮殿へ行ったの。そこは何度も車で前を通った場所だったし、子供の頃は塀の外に立って、中はどうなっているんだろうって思っていた。それなのにそこへ入ることができたんだから、本当に信じられないことよね。」
35週間経った今でもビルボード・ホット100のチャートで上位のポジションを保ち続けるシングル「Lights」など、アメリカでの成功はエリーにとって言葉だけで表すには難しいまた別の大きな経験となった。彼女はアメリカに魅了されていると言う。「彼らはなんでも喜んで受け入れるの」とエリーは話す。「どんなに大きな欠点でも、それをポジティブなものへと変えてしまう。それにアメリカ人の仕事に対するモラルは、それまで私が知ることのなかったものだった。ホテルに夜中の1時に戻ると、“今からスタジオへ来ない?”って連絡があるの。そしてスタジオへ着くと、隣ではスウェディッシュ・ハウス・マフィア、スクリレックス、そしてウィル・アイ・アムがいるの。みんながただそこに居て、音楽を作っていた。」
ツアー先、そしてボーイフレンドのスクリレックスと彼のDJ仲間と過ごしたロサンジェルスでの時間は、エリーの音楽に影響を与えた。エレクトロニカとダンス・ビートにどっぷりと浸った『Halcyon』では、クラブシーンのリズムとテクスチャ、そしてエリーのパストラルな本質と特徴的に歪められたフォーク・ポップ・サウンドが、魅惑的にぶつかり合い、『Lights』から既に存在していた要素に更に深みを与えて発展させている。「私は最初からずっとエレクトロニック・ミュージックに魅了されているの」と彼女は熱く語る。「世界的に有名なDJたちとも幸運にも時間を過ごす機会を与えられた。彼らのメール・スレッドに含まれているから、限定の新作を送ってもらえるの。それを聴きながら、“これに加われるって、なんてラッキーなの”って思う。彼らに「Hanging On」(*記憶に留まるアクティブ・チャイルドのカバー)を送ったときも、みんながツィートして反応してくれた。それって私にとってはすごいことで、仲間意識を感じられる。」
エリーにとって大きな人生の変化があった時期を捉えた『Halcyon』は、インスピレーションとなった悲しげな特質があるにも関わらず、最終的には償いのアルバムとなっている。何よりも、それは新たな冒険の変わり目に立ち、闘いの勝利(エリーにとっては一時的な休戦なのかも知れないが)と学びを手に入れた若きミュージシャンの感覚が伝わってくる。「このアルバムに最も影響を与えたのは、孤独感だった。私は自分がやっていることはすごく孤独だと思っているの」と彼女が話すと、思わず安心をさせたくて抱きしめてあげたくなる。しかし、エリーは続けて話す:「今でもなにか得体の知れない力が私の背中を押しているような気がするの。」そして、彼女がなぜ特別な存在なのかを思い出す。彼女は正直な人で、その“考え過ぎ”てしまう癖を自分で認め、そして受け入れられるほど己を知っている。自分と向き合う勇気、そして再び闘いに向かう勇気を持っている。才能と力強い歌声を与えられ、傷付きやすく弱いが、心の奥深くでエリー・ゴールディングは堅固であると自覚していることがわかる。
(レーベルオフィシャルバイオより)