2017年、師走。どの音楽メディアでも今年のベストアルバムやベストトラック、ベストアーティストを発表しまくりの年末であるが、かたやPitch Forkでは「The 20 Best Experimental Albums of 2017」なんてものを発表。

エクスペリメンタル…それは日本語に直訳すれば「実験的」。エクスペリメンタルと名がつくものは、大概にして通好みな、裏を返せば万人ウケしにくいものが多い。「なんでこんなもん作っちゃったの???」と尋ねたくなることもあるだろうが、音楽の好みは千差万別、工事現場のノイズ音でエクスタシーを感じる人もいる。

とにかくせっかく年末なので、たまには怖いもの見たさでエクスペリメンタルなミュージックとやらを覗き見ならぬ覗き聞きしてみるのも良いのではないだろうか。
2017年度の中でも最先端中の最先端な音楽であることは間違いない。更に言えば、こういったエクスペリメンタルな楽曲を作るアーティストが作り出したサウンドが、まろやかに磨かれまくって数年後にメインストリームにまで落としこまれるようになることも少なくはないので、聞いておいて損はない。

天下のPitch Fork厳選ということで、2017年のエクスペリメンタル中のエクスペリメンタルであることは間違いない…と、灰野敬二先生みたいな曲ばかりランクインしていることを覚悟して聴いてみたが、思ったよりも全然大丈夫、メロディアスで聴きやすい曲が多かったので、割と安心して聴いてもらいたい。
 

20位 Pharmakon「Contact」
19位 Klein 「Tommy EP」
18位 Amnesia Scanner 「AS TRUTH」
17位 L’Rain 「L’Rain」
16位 Eluvium 「Shuffle Drones」
15位 Yves Tumor 「Experiencing the Deposit of Faith」
14位 Ben Frost 「The Centre Cannot Hold」
13位 Jefre Cantu-Ledesma 「On the Echoing Green」
12位 Godspeed You! Black Emperor 「Luciferian Towers」
11位 Forest Swords 「Compassion」
10位 Mhysa 「Mhysa」
9位 Lushloss 「Asking/Bearing」
8位 Joni Void 「Selfless」
7位 William Basinski 「A Shadow in Time」
6位 Blanck Mass 「World Eater」
5位 GAS 「Narkopop」
4位 Ryuichi Sakamoto 「async」
3位 Various Artists 「Mono No Aware」
2位 Kaitlyn Aurelia Smith 「The Kid」
1位 Arca 「Arca」


20位にランクインしたPharmakonContact」は、ジャケットからしてもうエクスペリメンタル感満載、というか気持ち悪い。Transmissionは静かに始まり途中でギャリギャリしたノイズ+シャウト。イメージとしてはブレードランナー。とにかく不安感と世紀末感がたっぷり詰まった一曲に仕上がっている。
 



18位に輝いたAmnesia Scannerの「AS TRUTH」は、も頭をカチ割られているグロテスクなジャケットが既にインパクト大だが、アルバム収録の楽曲AS Brieth [ft. Colin Self]は、日本人の耳で聞くと重いビートに乗ったエフェクト掛かったボイスが「イタイイタイイタイ!」とひたすら言い続けているように聞こえて、とにかく耳も気持ちもイタくなる。
 



10位Mhysaの「fantasii」は上記2作品とは一転し、アーバン?な雰囲気のオシャレ〜で繊細な曲が多い。Spectrumは浮遊感のあるオシャレエレクトロニカでにかく一音一音作り込まれていてカッコイイ。
 

同アルバムのStrobeは、オシャレなんだけど微妙に奇妙なヒップホップ。MVは雑草の生えた中庭みたいな場所で黒い傘持って踊っていたりとか、家の中でゴロゴロしてたりとか、曲の完成度とは比例してスマホのカメラでうっかり撮っちゃった的手作り感満載でエクスペリメンタル。しかしなんにせよ上記に紹介した2曲に比べて安心して聴いてもらえるオシャレサウンドなので、エクスペリメンタルなんて苦手です無理です、という方にもオススメ。
 
 

そして4位に輝いたのが、我らが教授、世界のRyuichi Sakamotoの「async​」!!! こちらもfullmoonはまさにエクスペリメンタルとしか言いようがない、フランス語だかでいろんな人がとにかくボソボソ言ってる曲。パンがガンガン振られていて、とにかく左右からボソボソ、ボソボソといろんな人に囁かれている曲。惑星ソラリスの監督のアンドレイ・タルコフスキー監督の映画に教授がインスパイアされて作られたというアルバムは、物悲しくディストピアチック。
ちなみになぜ坂本龍一が教授と言われているのか。若い方はご存じないかもしれないので補足しておくと、その昔、YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)のメンバーであった坂本龍一に同じくYMOのメンバーの高橋幸宏と初めて会ったときに、坂本龍一が東京藝術大学の大学院生だと聞いた高橋幸宏が「じゃあ、プロフェッサーだから『教授』」と名付けたんだとか。その後2014年には、坂本龍一は実際に東京藝術大学にて客員教授を務めている。
 
 

そして、堂々の第1位Arcaの「Arca」。2017年、ArcaはFUJIROCKにDJセットで出演し、更に親交深いBjorkのライブにもゲスト出演したということもあり、日本でも知名度が高いアーティストであるが、Arcaの凄いところは、非常にキャッチーな点ではないだろうか。アルバムだけ聴いているとまさに通好みな音楽そのものという感じだが、ライブではまた違った意味でエクスペリメンタル感満載の体験をさせてくれる。うねる音、シャウト、そして裾をまくってTバックの尻を丸出し(この「Desafío」のMVの衣装のような服をよく着用している。)、ファンサービス?精神旺盛なArca。最前列では女の子たちが「キャ〜!Arca様〜!」と黄色い声を上げる…というカオスな状況に出くわし混乱する観客の姿もよく見かける。この音楽でこのノリエクスペリメンタルにエクスペリメンタルを重ねると、最終的に行き着く先はエンターテインメントになるのかもしれない。
 

彼のインスタもかなりブッ飛んでいるのでぜひチェックしてみて欲しい。


普段はあまり聞かないアーティスト、聞かないジャンルの曲が多いかもしれないが、極寒の師走、家でぬくぬくと炬燵に潜ってミカンでも食べながら、エクスペリメンタルな音楽に身を浸してみるのも乙な年末ではないだろうか。