9月22日(土)〜10月12日(金)の約1ヶ月間行われている都市型音楽フェス「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO(レッドブル・ミュージック・フェスティバル・トーキョー)」。今年は「音楽の解放区」をテーマとして掲げ、東京の街全体を舞台とした様々な演出やコンセプトで開催している。

2018年のレッドブル・ミュージック・フェスティバルもいよいよ佳境に。10月9日に開催された【やくしまるえるこ「わたしは人類」インスタレーション + 特別集会「国立科学博物館の相対性理論」】は、タイトルの通り上野国立科学博物館という異質な場所をステージとしてのライブとあって、各方面からの注目を集めていた。

「相対性理論」など数々のプロジェクトを手がけ、音楽家・アーティスト・プロデューサーとして活躍する やくしまるえつこが、”人類滅亡後の音楽”をコンセプトにバイオテクノロジーを用いて制作し、音源と遺伝子組換え微生物で発表された作品の「わたしは人類」は、世界最大の国際科学芸術賞アルスエレクトロニカ・STARTS PRIZE にて2017年度グランプリを受賞している。今回の企画は、上野国立科学博物館にて「わたしは人類」のインスタレーションを展示し、やくしまるえつこ率いるバンド 相対性理論がその展示空間で「わたしは人類」を演奏するというものだった。


会場となった閉館後の国立科学博物館は、静けさに包まれていた。地球館の地下2階には太古の哺乳類や鳥類などの化石が展示されており、その中央には特設のステージが設置され、バンドセットが組まれていた。更にその中心には今回メインの展示である、遺伝子組み換え微生物が入れられた冷蔵庫が煌々と光っていた。

photo by Kenshu Shintsubo

この遺伝子組み換え微生物は、楽曲「わたしは人類」を構成する要素の一つである。「わたしは人類」は、バイオテクノロジーを用いて制作され、音源と微生物を合わせた形で発表されており、この微生物の DNA 中には楽曲を暗号化して組み込んでいるという。今回のライブでは、化石の展示スペース全体がインスタレーションとして使用されており、相対性理論のライブも合わせて全体で一つの作品であるように見受けられた。

photo by Kenshu Shintsubo​

張りつめたような閉館後の博物館の静寂の中に微かに聞こえる環境音楽と共にライブの開始を待つ観客たち。開演時間を少し過ぎたところで、やくしまるえつこ率いる相対性理論が登場した。上手にドラムとギター、下手にベースという配置で、やくしまるえつこ はチャイナドレスに大きなファーの付いたコートで現れ、その圧倒的な存在感に観客たちは釘付けになっていた。

photo by Kenshu Shintsubo​

相対性理論のアルバム『天声ジングル』の「FLASHBACK」から演奏がスタート。音源で聞くよりも躍動感があり、かき鳴らされるギターの音色が曲に抑揚をつけていき、観客を飲み込んでいく。
2曲目は、およそ2年半ぶりに突如ゲリラ配信リリースされた「NEO-FUTURE」。今回のイベントがリリース後初のライブであり、観客を前にしたお披露目のライブとなった。今回のライブを通して、やくしまるえつこは白く光る棒状の楽器を使用。この楽器は Rhizomatiks(ライゾマティクス)真鍋大度らと開発したオリジナル9次元楽器「dimtakt」というもので、この光る楽器を掲げ、やくしまるえつこが曲に合わせて揺れ動く姿はまるで夢のような情景だった。

photo by Taisuke Nakano​
3曲目には、今回の展示タイトルにもなった「わたしは人類」が披露された。壮大なストリングスと鳥の声などで構成されたイントロが始まると、まるで宇宙と太古が会場を中心として繋がっているいかのような不思議な感覚に。やくしまるえつこの歌詞、歌声、それを支えるバンドの楽器の音色、それらと会場が一体となり、その圧倒的な空気感に観客たちはひたすら呆然とさせられた。演奏が終わると、やくしまるえつこの「おやすみ」の一言でライブは終了し、会場が再び静寂を取り戻した。

photo by Kenshu Shintsubo​

演奏終了後には、ライブスペースの横にある「人類の進化」の常設展示スペースへ誘導された。そこは人類の起原についての展示コーナーとなっており、観客たちはライブの余韻を引きずりながらそれらを観覧した。その後は、ライブ中にはやくしまるえつこの背後で薄暗いステージの上を煌々と照らしていた「わたしは人類」の遺伝子組換え微生物が入った冷蔵庫の観覧の時間も設けられ、観客たちはすぐ側まで近づいてそれらを観察し、しきりにカメラのシャッターを切っていた。

photo by Kenshu Shintsubo​
全てが通常のライブとは全く違った【やくしまるえつこ「わたしは人類」インスタレーション + 特別集会「国立科学博物館の相対性理論」】。あっという間の、まるで一瞬の夢のようなたった3曲のライブは、強烈な印象と共に観客たちの脳裏に永遠に刻まれたに違いない。
 

「わたしは人類」インスタレーション+特別集会
「国立科学博物館の相対性理論」

日時:2018年10月9日(火) 開場 17:30/開演 18:00
場所:国立科学博物館(上野)
料金:SOLD OUT
出演:やくしまるえつこ / 相対性理論

人類滅亡後の音楽。
やくしまるえつこが「人類滅亡後の音楽」をコンセプトにバイオテクノロジーを用いて制作し、音源と遺伝子組換え微生物で発表、世界最大の国際科学芸術賞 アルスエレクトロニカ・STARTS PRIZE グランプリを受賞した作品『わたしは人類』。
金沢 21 世紀美術館や山口情報芸術センター<YCAM>、オーストリア、ベルギーなど国内外での展示を経て、この、やくしまるえつこ『わたしは人類』遺伝子組換え微生物の展示が、東京の街全体を舞 台にしたレッドブルの都市型音楽フェス「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2018」にて実施。
人類滅亡後のポストヒューマンさえも視野に、新しい音楽 - 伝達と記録、変容と拡散‒の形を探る試みであるこの作品を、地球や生命の歴史、人類や科学の歩みを問いかける「国立科学博物館」にて、10 月 9 日(火)一夜限りの特別展示。さらに、この『わたしは人類』遺伝子組換え微生物の展示空間で、やくしまるえつこ率いるバンド相対性理論が『わたしは人類』を演奏する国立科学博物館限定ライヴパフォーマンスを行う。
www.redbull.com/jp-ja/music/events/etsuko-yakushimaru