世界中で大ヒットを飛ばしている、 Lil Nas X(リル・ナズ・エックス)の "Old Town Rord" 。Nine Inch Nails(ナイン・インチ・ネイルズ)の「34 Ghosts IV」をサンプリングし、Hip Hop とカントリーミュージックを融合させた新しいサウンドのこの曲は、動画共有アプリ「TikTok」でこの曲に合わせて突然カウボーイ姿となる「Yeehaw Challenge」が大流行し、それと共に話題沸騰となった。
Diplo(ディプロ)、Billy Ray Cyrus(ビリー・レイ・サイラス)によるオフィシャルリミックスもその人気に更に火をつけることとなったが、先日、その 「“Old Town Road (Remix)” featuring Billy Ray Cyrus」のオフィシャルムービーが公開された。
馬が荒野を駆け抜ける西部劇風のシーンから始まるこのオフィシャルビデオのストーリーは、1889年の「OLD TOWN ROAD」では、大金の入った袋を抱えた Lil Nas X が、仲間の Billy Ray Cyrus と行き着いた先の小屋に住む白人の父娘に発砲され、地面に作られた壕のようなところに転がり込むと、その先は2019年の「OLD TOWN ROAD」で……という、まさかのタイムトリップ展開に。
Lil Nas X はこの "Old Town Rord" で Hip Hop と カントリーミュージックの融合を果たした。 "Old Town Rord" は、iTunes、Soundcloud 等ではカントリーミュージックのジャンルとしてカテゴライズされていた。そして、2019年3月の Billbord のカントリーミュージックチャートで19位で登場したにも関わらず、その後 Billbord は同曲を「カントリーミュージックの要素を十分に満たしていない」と判断してカントリーミュージックチャートから削除し、「人種問題に当たるのではないか」と一部から非難された。
Lil Nas X 本人は、「同曲はカントリー、トラップ、サブジャンルとしてサザンヒップホップもジャンルとして含まれる」と語っており、更にオフィシャルリミックスを手掛けた Billy Ray Cyrus は紛れもないカントリーユージックアーティスト。そんな彼も "Old Town Rord" を絶賛しているわけであるから、この曲がカントリーミュージックではない、という Billbord の判断に首をかしげる人が多いのは当然である。
日本に住んでいるとあまりピンと来ないかもしれないが、アメリカは黒人、白人、ヒスパニック……と様々な人種問題を孕んだ国であり、それは音楽においても常に付いて回る。例えば、Hip Hop、R&Bといった音楽は黒人カルチャーの音楽であるが、カントリーミュージックはトラディッショナルな白人カルチャーの音楽である、と言ったように、音楽にも頻繁に "人種" は絡んでくるし、そして時にはその人種が辿ってきた重い歴史までもが背景にあるため、EMINEM 然り、この Lil Nas X 然り、人種の壁を超えてそこに挑もうとするアーティストが、当初はそのジャンルが属する人種のコミュニティーから白い目で見られることも多い。
同曲のストーリーの中で、Lil Nas X がこう言うシーンがある。
それに対し、Billy Ray Cyrus がこう言う。"I don't know about this, last time I was here they didn't take too kindly to me."
なぜか分からないが、前回俺がここに来たとき、彼らは俺にあまりにも不親切だった。
このセリフは、Lil Nas X の同曲が Billbord に登場時に、上記のような目に遭った背景と、そしてその後、 Billy Ray Cyrus というカントリーミュージックの大御所アーティストのリミックスバージョンとして再登場し、再び Billbord とカントリーミュージックシーンに挑んでいることについてのメタファーとなっているのだ。"you're with me this time."
今回は俺も一緒だぜ。
このビデオの中で、1889年の世界では白人のカウボーイに拒絶反応を示されていた Lil Nas X が、現代では黒人カルチャーからのリスペクトを受け、ラストには現代の白人のカウボーイたちにも受け入れられ評価されている。カントリーミュージックシーンにて絶大な人気を誇る Billy Ray Cyrus、そして現在のミュージックシーンを席巻するプロデューサーである Diplo と組んで、新人の Lil Nas X が更に新たな風をシーンに吹き込んでいく様子がコミカルな映画仕立てに描かれている。
Lil Nas X は "Old Town Rord" を「カントリー・トラップ」であると言う。いくつものジャンルを股に掛ける "Old Town Rord" は、音楽も国境も人種もどんどんオープンに、そしてジャンルレスに広がりゆく新たな時代の幕開けの象徴のように思えてならない。
Written by きのや