「テクノ・シーンのドン」…なぜかこの表現がピタっとはまってしまうくらい、Dave Clarke というアーティストの持つ貫禄というものにはいつも圧倒されてしまう。そのいつも何かに怒りを感じているような表情は勿論、軟弱なジャーナリズムをこき下ろし、安易につくられたコマーシャル・トランスに猛然と牙をむく発言…。「歯に衣着せぬ」を通り越した、そのストレートで問題意識に満ち溢れたアティテュードに、彼の音楽に対する真の愛情を強烈に感じてしまうのは、きっと筆者だけではないだろう。
80年代の中頃にヒップホップ系のDJとしてキャリアをスタートさせた Dave は、80年代後半に訪れたアシッド・ハウスとレイヴ・カルチャーの洗礼を受けてハウス・ミュージックへと傾倒。Pig City などの名義で、当時の名門レーベルだった Stress や R&S などから作品をリリースし始める。そんな彼の名前を一躍有名にしたのが、全世界のテクノ・シーンの流れを変えたと言われる94年発売の2枚のEP「Red」「Red2」。極端なまでに音数を減らした「体脂肪率の低い」プロダクションでありながら、それまでクラブ系サウンドを凌駕するエネルギーをフロアに撒き散らしたこの作品は、饒舌な展開が身上であるアシッド・ハウスの流れに食傷気味となっていた当時のシーンに大きなセンセーションを巻き起こし、後に湧き上がるミニマル・ムーブメントの先鞭をつけたアンセムとして、その後も語り継がれていくことになる。
それから10余年。そのスタイルはストレートなテクノからエレクトロ系サウンドへと大きくシフトしながらも、Chicks On Speed をフィーチャーした「What Was Her Name?」が世界中のフロアを賑わすなど、相変わらずトップ・クラスのクオリティを維持している。テクノ・シーンのご意見番として、そして最前線で活躍を続けるDJ/プロデューサーとして、彼の暴走はこれからも続いていくことになりそうだ。