連日の曇り&雨模様で気温はそこまで上がらず、2017年のSONIC MANIAは湿度は高いものの比較的過ごしやすかったのではないだろうか。毎年SONIC MANIAではテンションの上がったオーディエンスにもみくちゃにされ、息切れしながら幕張メッセの屋外へと逃げ出し、汗でベタベタになった体に細かい砂埃がつくのも構わず、昼の蒸し暑さが残るアスファルトの上に座り込む…というのが毎年恒例行事のように思えたものだが、今年はサッパリとした顔で平然とタバコをふかしている人が多かったように見受けられた。


近年のSONIC MANIAの出演アーティストラインナップに目を通す人の中には「あ〜ひと昔前に全盛期だったバンドが多いよね」と口にする人は多いだろう。確かに、年季の入ったバンドが多いのは確かだ。しかし「ひと昔前」と形容するのは大間違いで、現在進行形で最高のパフォーマンスをしてくれるバンドが厳選されている、と言うのが正解だろう。とにかく出演アーティストたちが良い意味でライブに小慣れている。それは決して「慣れているから適当にやっときゃ良いよね」感ではなく、慣れているからこそ観客との一体感を演出するのがとにかく上手く、どうしたら自分のパフォーマンスを最高の状態で客に見せられるのかをしっかりと把握している、という意味で小慣れているのだ。


その代名詞的な存在であるのがJUSTICEだろう。彼らのライブは、見るたびに「今回のJUSTICEは過去最高だった!」と思わせる。光るJUSTICEボックス?が並び積まれるステージ中央に、機材を弄るギャスパールとグザヴィエが揃いのスタジャンを着て立つ。背後のスクリーンには、彼らのトレードマークである巨大な十字架。いかにもJUSTICEらしいアートワーク。ライブの途中、突然彼らは故意に曲を止め、それと同時に同時に、彼ら自身もまるで路上のパントマイマーのようにピタリと固まってしまった。そして、客は長いこと焦らされた(おそらく30秒ぐらいだったが、それは酷く長い時間に感じられた)。再度、サウンドが爆発的に鳴り響いた瞬間の観客達の顔ときたら、皆、極限まで我慢し続けてトイレに駆け込んだ瞬間のような清々しい顔をしていた。JUSTICEの客への煽りはどこか上品でとても静かだ。まるで指揮者のように指先だけで、熱狂的に興奮して飛び跳ねまくる観客たちを自在に操る。ステージの最後には、ギャスパールとグザヴィエがフロアにやって来て、観客たちと握手をしたりクラウドサーフをするというパフォーマンスも。クラウドサーフも、客の上を横になって転がるのではなく、客たちが差し出す手の上を一歩一歩、歩き回るというもの。客達は皆、踏まれたがって手を突き出した。その様子は、まるで蟲の触手の中を歩き回るナウ○カようで、神々しさすら感じられた。



JUSTICEの裏では、PerfumeがCRYSTAL MOUNTAINの最初のライブとしてステージを温めた。ダンスミュージック寄りのソニマニらしく、ダンサブルな曲を中心のセットで組んできたPerfumeだったが、もちろんお得意のトークも炸裂。「楽屋で着替える時によろめいてパーティションの向こうを見たらカサビアンだった」「今回ソニマニに出てる日本人アーティストは自分たちと電グルだけで光栄(他にも何組もいる)」など、天然な発言でファンたちをざわつかせた。そんなキュートでとぼけた和み系のトークと、それとは真逆のキレキレのパフォーマンス、エレクトリカルな演出で毎回オーディエンスを虜にしていくPerfumeのライブは、今回SUMMER SONICでもまた新たに大量のファンを生み出したことだろう。



Liam Gallagherは良い歳の取り方をしている、と会場にいた観客たちは皆思ったに違いない。一昔前、リアムというと「ライブで声が出にくくなっているのでは…」という話がよく話題に上っていたものだが、今回SUMMER SONICでのリアムの声は、そんなファンたちの不安の声を拭い去ってしまうほど最高のコンディションに感じられた。手を背中で組み、少し体を斜めに傾かせて歌う彼お決まりのポーズで、時折マラカスを振りながら、薄いサングラス越しに観客を見ながら歌うリアムは、相変わらずのワルの風情を醸し出してはいたものの、どこかチャーミングさが増しているように感じられた。ソロの曲でもオアシスの往年の名曲でもとにかく大盛り上がり、観客の合唱が絶えないライブだった。



世の中には「変態」と称されるミュージシャンというのがいるが、間違いなくSquarepusherもその中の一人だ。壮絶なベースの演奏テクニック、楽曲の完成度の高さからそう評されており、間違いなく世界トップクラスのベーシストであるわけだが、変態は時々思いもよらない方向へと突き進んでいく。彼ほどの技量なら、普通に演奏するだけでも十分なパフォーマンス力であるにも関わらず、彼はそれだけでは気が済まなかったようだ。ソロでの活動時から、電光表示のお面?を着用してダフトパンク的な演出をしたがったり、ベースにエフェクトを掛けまくってノイズ化させてみたり…その極め付けがShobaleader Oneではないだろうか。宇宙人という設定までつけてしまい、その時点で完全にイロモノ路線を突き進みそうなところだが、Shobaleader Oneはもちろんメンバー全員が超絶バカテク技巧集団なので、イロモノにすらならない…むしろSquarepusherの緻密に作り込まれた名曲の数々をなんと!バンドで!聞ける!というとにかくありがたいバンドで、その人間離れした演奏で「宇宙から来たバンドです」という設定すらしっくり馴染んでしまう始末。大体、あの重そうなピカピカ光るお面は楽器を弾いていて邪魔にならないのだろうか。むしろハンデがあっても余裕です、というパフォーマンスなのだろうか。それらの謎も含めて、とにかく次元を超えたカッコ良さのあるライブだった。ちなみに、Shobaleader Oneの次にライブをした電グルのVJでは、Shobaleader Oneらしきキャラクターの顔の電光表示が「電」になっている映像が使われていて、クスクス笑いが巻き起こっていた。




今回のSUMMER SONICには、FUJI ROCKほどではないにしろちらほらと外国人客の姿も見受けられたが、個人的に気になるのが、何も知らない外国人音楽ファンが電気グルーヴを初めて見たとき、一体どんな感想を持つのだろうか、ということだ。
アロハシャツを着た謎のおじさんたちがクオリティの高いテクノミュージックに乗せてグルーヴィかつ奇妙な日本語歌詞を歌いながら壇上で軽快な踊りを披露し、時折「イエ〜ッ!」と叫ぶ。サイケデリックなVJ、飛び交うレーザー。観客も一緒になって奇妙なリリックを連呼しながら踊り狂う。カオスとしか言いようのないステージ。初めて電グルを見た日本人は、大概「カッコイイんだけどなんか怖い(シュール過ぎて)」と言うが、それがくさやのようにクセになるのだ。彼らは一般的なミュージシャンのようにクールさを演出せず、計算され尽くした悪ふざけの極致を演出するが、彼らのカオティックな演出は、絶対に外国人音楽ファンを「これぞクールジャパン」と思わせたに違いない。「俺たちが電グルだぜ!」と日本語で叫んだ石野卓球のMCに、日本のテクノシーンを常に引っ張り続けてきた彼らの強い意思を見せつけられた気がする。



今回のSONIC MANIAで初来日公演を果たしたのは、ノルウェー出身でLAで活動するトラックメーカー、LIDO。裏が大御所Orbitalというプレッシャーの中、健闘を見せてくれた。彼のライブスタイルはステージ中央に彼自身を取り囲むようにドラムやシンセサイザー、マイク等を四角の形に配置し、楽曲に合わせて演奏したり歌ったりというスタイルで、マルチプレイヤーっぷりを見せつけてくれた。明け方、じっくり聴かせるR&B寄りのエレクトロニックが踊り疲れた人々の胸にじ〜んと響いたのではないだろうか。(もちろんフロア前方で元気に踊っているオーディエンスも多かった。)LIDOはSONIC MANIAとは別日にWOMBでもライブセットを披露し、こちらも大評判だった。



そしてSONIC MANIAのラストを飾ったのは、90年代テクノシーンを代表する大御所Orbitalだった。一晩中歩き続け、踊り続けて疲れ果てているはずのオーディエンスたちが、ボフボフと空気を弾く音圧、肋骨に響く重低音に体を揺すられるように踊り始める。いつのまにかフロアにはあふれんばかりの人が押し寄せ、踊り納めとばかりに体を動かしていた。爆音の軽快なテクノが、明け方のどんより感をすっきりと吹き飛ばしてくれた。

Written by: きのや