2017年11月3日(金/祝)、4日(土)、5日(日)の3日間に渡り、東京・日本科学未来館(Miraikan)にて開催された「MUTEK.JP 2017」。昼間は音楽やデジタルアートについてのディスカッションやトークショー、ワークショップなどが、そして夜には音楽とデジタルアートが融合したライブが楽しめるという非常に規模が大きなイベントで、連日子どもから大人まで数多くの人々が会場であるお台場科学未来館(Miraikan)へと訪れた。


Night Timeのプログラムはライブがメインであるが、その演奏スタイルはアーティストやステージにより全く異なり、既存のライブとは一線を画すMUTEKらしいものばかりだった。


2日目にも科学未来館ドームシアターでは、その半球型ドームの形状を生かした音楽と映像のアートインスタレ ーションが行われ、1日目に引き続き非常に人気のあるプログラムとなった。ドームシアターは普段はプラネタリウム上映にも利用されており、その湾曲した壁面に映し出された映像は更に立体感を増し、見る者を没入体験へと引きずり込む。2日目初回に上映された Woulg & Push 1 stop は、Push 1 stopの作り出す映像とWoulgの音楽がリアルタイムで相互に作用し合って一つの作品を作り上げていく、というもの。ドームシアター内に映し出された映像は、天空いっぱいに広がって迫り来るようで迫力満点だった。
 
PlayStation 4用ソフト「Rez Infinite」を、一時は入手困難となっていたPlayStation®VRで体験できるコーナーも。ドームシアターでは、このRez Infiniteをドーム壁面に映し出してさらなる没入体験を参加者100人で体感するプログラムも実施された。



1日目〜3日目に掛けて、メインホールで連日5分間という短い尺で観客を楽しませたのは「CLAIR DE LUNE for Tomita Isao」。ドビュッシーの名曲である「月の光」を、MOOGのシンセサイザーを使用して故・冨田勲氏がリミックスし非常に高い評価を得た作品が大音量で会場を包み込む中、一定間隔に天井からコードで吊るされた球状の白いライトが観客の前にランダムに下がってくる。スモークが焚かれてぼんやりと白む空気の中を、それぞれのライトが音に合わせて上下し、様々な色の光を放つ。非常に幻想的なインスタレーションだった。



2日目に観客を最も熱狂させたのは、Rival Consolesではなかっただろうか。メロディアスなエレクトロニックでスタートし、途中で重めなギターサウンドが入り、そして四つ打ちからブレイクビーツへ…といった調子にどんどん展開していく音は、しかしその流れに全く違和感を感じさせない滑らかなものだった。そしてそれに呼応するかのように、背後のモニターには細い線が大量にさざめき合う。最初は白かった線には、徐々に線に色が付いていき、様々な色に変化し、そして最終的には虹色の線の集合体となった。



3日目はRED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO とのコラボ開催となり、科学未来館ジオコスモスエリアにて行われた「Kazuya Nagaya & Metametric Constellations」で幕を開けた。天井から下げられた、高解像度で気象衛星が撮影した地球の動画をリアルに映し出す科学未来館の象徴・Geo-Cosmos(ジオ・コスモス)。その下で青銅製のりん、ゴング、シンギングボウルの音と、暗く低いアンビエントミュージックを組み合わせて作り出された音が、まるで神聖な祭事の場のような厳かな雰囲気を作り出していた。



Kenji Williams BELLA GAIA」は、なんとあの「NASA」も推進しているという没入体験プログラム。 NASAのスーパーコンピューターによる映像化されたデータや地球の高忠実度軌道ビューなどを使用した映像と、バイオリンの美しいメロディを組み合わせた心地良い音楽。英文で表示されるテキストが「自然の美しさや地球上の全ては繋がっている」「地球は生きている」というメッセージを観衆に訴えかけた。



3日目にある意味一番多くの観客の興味をひいたのは、Tersuya Komuro & Akira Wakitaのライブだったのではないだろうか。やはり、あまりにも「90年代J-pop黄金期を作り出した小室哲哉」の印象が強過ぎて、彼が一体どんな音をMUTEKで奏でるのか、脇田玲のビジュアルアートと一体となり、どのような作品を作り出してくるのか、と気になった人は多かったようだ。演奏前には「アニキ!」「てっちゃん!」とコールするファンの声が響いたが、蓋を開けてみれば普段の小室哲哉の顔は封印されていた。冨田勲を尊敬し、シンセサイザーを熟知し尽くした小室哲哉が脇田玲とタッグを組むことにより作り出された作品は、ひたすら真摯なアンビエントで観客を驚かせた。



そして2017年度のMUTEK.JPのトリを務めたHIFANAは、「シーケンサーとかプログラミングとか、分かりません!」とローテクっぷりを猛アピールし、会場を和ませた。そうは言いつつも、パッドとPCを駆使して作り出す音楽と映像を同期させる彼らのスタイルはMUTEK的。繰り出されるハイテンションなトラックとド派手な映像で、知的好奇心を刺激する音楽とビジュアルアートの冒険の旅を経て、少し肩が凝った観客たちを祭りの最後に楽しく盛り上げてくれた。



Written by きのや