"世界一飛び降り自殺が多い橋" という不名誉な記録保持でも知られる、アメリカ・サンフランシスコにある巨大な橋「ゴールデン・ゲート・ブリッジ」は、2019年に歩道の手すりが改修され、安全対策のために手すりの棒の隙間が狭くなったことにより、風の強い日になると、手すりを通過する風によって大きなハムノイズが鳴ってしまうようになった。


飛び降り自殺をした死者たちの悲壮な咆哮のようにも聞こえるその音は、橋の上を通る人はもちろん、近隣住民にまで届くような巨大なノイズで「うるさい」「心配になる」「イライラする」という苦情が出ている、とSan Francisco Chronicle の記事で取り上げられている。
下の動画でも分かる通り、車で通行していてもかなり大きな音が聞こえるようだ。
 

そんな、悪評高いゴールデン・ゲート・ブリッジのハムノイズだが、これに興味を引かれたのが、Jay-Z や Leon Bridges といったアーティストのセッション・ミュージシャンとして働く、ギタリストの Nate Mercereau(ネイト・マーセロー)
Nate Mercereau は、今年7月にこのゴールデン・ゲート・ブリッジのハムノイズとコラボしたアルバムをリリースした。

このアルバムは、ドローン・ギターの即興を特徴とするコラボ・トラックが収録されたアルバムで、タイトルはそのまま『Duets / Golden Gate Bridge』。橋の作り出す不吉な音色にゆっくりとしたメロディーをギターで織り込んで、まるでチベットのシンキング・ボウルのようなトラックに仕上げている。
 

Nate Mercereau は、ゴールデン・ゲート・ブリッジのハムノイズについて「それは非常に音楽的だ。複数の音を鳴らしている」と述べているとのことだ。

彼は今年5月に、エンジニアの Zach Parkes、フォトグラファーの Minea Bisset と共にゴールデン・ゲート・ブリッジのそばにあるマリンヘッドランズまでトレッキングし、2日間に渡ってこのデュエットを録音した。

なお、ゴールデン・ゲート・ブリッジの歩道の手すりの改修には1200万ドルの費用が掛かっていたが、このハムノイズの対策のために、ノイズキャンセリング改造費用としてコンサルティング料だけで既に26万ドルの費用が掛かっており、実際に橋を改修するためには更なる費用が掛かってしまう上に、改修完了までに数ヶ月以上掛かるかもしれない、とのことだ。
アルバムは素敵だが、風の強い日は昼夜問わずワンワンと鳴り響くハムノイズは、近隣住民にとってはかなりストレスの元となってしまっていることは確かだろう……。