EDMファン、ダンスミュージックファンのみならず、音楽ファンであれば少なからず彼の名を知らない者はいないであろう、EDMシーンのトップスター、Avicii(アヴィーチー)。現地時間4月20日(金)、惜しまれつつもその生涯を閉じた Avichii が現在の音楽シーンに残していった偉大な足跡を、追悼の意味も込めて今一度振り返る特集の後編をお送りする。

 

世界中が Avicii のトラックを流して追悼

アメリカでは Coachella 2週目に、また世界各国でイベントを行っていたアーティストたちが Avicii の楽曲を流して追悼している様子が、連日 Twitter やInstagram に投稿され続けている。Coachellaでは、Kygo が Avicii のビジュアルを映し「Without You」をプレイした。
 

Alison Wonderland、Carnage、Cash Cash、Quintino、Dillon Francis、Dannic、Yellow Claw、Slushii、Nervo、David Guetta、Matisse & Sadko、Don Diablo、Lost Frequencies …他にも沢山のアーティストたちが Avicii の楽曲をプレイし追悼した。

Alison Wonderland:
Cash Cash:
Don Diablo:
また、Avicii が亡くなる3日前と6日前にファンと撮影された写真も公開されている。
2011年から2013年の間に付き合っていたとされる Avicii の元彼女も、Avicii との思い出を Instagarm にアップしている。時期は書かれていないが、Avicii とメッセージをやりとりしたスクリーンショットや、2人で撮った写真などをアップしているが、まだ Avicii の死を受け入れられない彼女の様子が見ていて悲しみを煽る。  

EDMシーン第一線で活躍するアーティストたちの、舞台裏の苦悩

Avicii が亡くなって、早いもので既に10日以上が経過した。その間に、数え切れないほどの人々が彼の訃報を嘆き悲しむコメントをし、多数のアーティストたちが彼を追悼するために彼のトラックをプレイした。その一方で、Avicii の多忙スケジュールを問題視する投稿も目につく。

引退する前の Avicii はもちろんのことだが、他にも数多くのアーティストたちがツアーのため、さまざまな国へ赴き毎週末パーティーでプレイし、好きな楽曲を制作・リリースしているように見える。しかし、一見華やかに見える彼らの生活には、アーティスト本人でないと分からない暗闇を孕んでいるのかもしれない。時差や気候は、知らず知らずのうちに体への負担となる。強靭な体力が必要となるし、規則正しい生活は難しく、食事も機内食ばかりとなって栄養が偏る。
それに加えて、楽曲作りのプレッシャーや、第一線で活躍しているからこその悩み・苦悩が彼らを襲い続ける。そのプレッシャーたるや、我々には図りしれないものだろう。自分自身を擦り減らしてツアーを強行しているアーティストたちがほとんどなのではないだろうか。肉体的にはもちろん、精神的にも追い詰められながら仕事をしているのだとしたら、心がとても痛む。

Garethe Emery:
 

Genuinely heartbroken to hear about @avicii. . He was such an inspiration to me (the melody in Lost was entirely inspired by his, much better and more original track “all you need is love”) . I didn’t know Tim well, but on the 4-5 times we hung out or shared a stage he was never anything other than gracious and lovely, even as he was becoming the biggest DJ in the world. . It’s utterly tragic that he should have had a whole life of making his incredible melodies for us all, and yet he’s gone less than 10 years after his career started. . We - the dance music industry - need to get better at taking care of our younger stars. Heavy touring is mentally and physically brutal, even when you’re used to it. I can’t even imagine being remotely ready for it when I was 18. There’s always more gigs, more tracks and more money but you only get one life. This is such a wake up call. . RIP Tim Berling and thanks for all the music you made. For a short time, it made all our worlds a little brighter xx 

Gareth Emeryさん(@garethemery)がシェアした投稿 -


Rob Swire:


2016のインタビューにて、Avicii は以下のように語っていた。

“The scene was not for me. It was not the shows and not the music. It was always the other stuff surrounding it that never came naturally to me. All the other parts of being an artist. I'm more of an introverted person in general. It was always very hard for me. I took on board too much negative energy, I think.” 

“このシーンは僕には合っていない。このシーンは、ショーや音楽のためじゃないんだ。その周りにある何かのためなんだ。それは僕にとって自然な事じゃなかった。アーティスト以外の部分では、僕は内向的な人間なんだ。だからすごく難しかったんだ。おそらく、ネガティブなエナジーを貰ってしまったんだ。” 
注目を浴びることが苦手とも話していたAvicii。曲をリリース、大きなフェスでプレイする度に注目されてしまうAvicii。それはアーティストにとっては素晴らしい事ではあるが、内向的でシャイなAviciiには耐えがたかった部分もあったのかもしれない。


2017年には、Aviciiに密着したドキュメンタリーが映画館で上映された。日本でも昨年11月に2日間のみで劇場で公開されたこのドキュメンタリー。華やかな世界の裏側で、体を酷使しファンの期待に応えようと必死な Avicii の姿に迫っており、見ているこちらが辛くなってしまうようなドキュメンタリーである。

iFLYER記事:https://iflyer.tv/ja/article/2017/10/11/avicii056/#lang

Official Trailer:

Netflix で4月上旬にやっとリリースされていたこのドキュメンタリーは、4月23日現在では残念ながら観ることができなくなってしまっているが、もし今後目にする機会があれば、必ず見てもらいたい。アーティストである Avicii としての作られた顔ではなく、Avicii の本名の Tim(Tim Bergling)の素顔と、彼が「Avicii」であることの苦悩を垣間観ることができる。SNS で見るスーパースター Avicii は、華やかで全てを手に入れたかのように見えていたが、その裏側には数えきれないほどの沢山の苦しみがあったに違いない。

Avicii の大ヒット曲の1つである「The Nights」の歌詞の中には、こんな一節がある。

"One day you'll leave this world behind So live a life you will remember."
“いつか世界を旅立つ日が来る、だから記憶に残る人生を生きる” 


3枚目のアルバムを作成中だった Avicii。更に、他にもファンの間では長年噂になっていた ID 曲も沢山ある。このアルバムが今後リリースされるのかどうか、今のところまだ情報はないが、このアルバムが Avicii の最後のアルバムになるとは誰も予想していなかったことだろう。

Avicii の大ヒット曲の数々は永遠に我々の胸の中に生き続け、色褪せることはない。「The Nights」の歌詞のように、Avicii の人生は世界中のファンたちの記憶に留まり続けることだろう。Avicii と同じ時代に生き、Avicii のショーを生で観ることができたということは、本当に幸せなことだったのではないだろうか。Avicii の死については、家族から自殺を示唆するコメントが発表されているものの、警察からのはっきりとした発表はされていないが(今後も発表されるかは分からないが)、この信じがたい悲しい出来事が、残された我々EDMファンとEDMシーンで生きる数多くのアーティストたちに与えた教訓について、しっかりと受け止めていかなければならないだろう。

今はただ、Avicii の家族、近しい友人たちや仕事仲間などが、一刻も早く心の安らぎを取り戻すことができるように願うばかりだ。

Written by SAORIMILK