ASTRIXサイケデリックトランスカルチャーに関係する誰もが「ASTRIX」のことを知っていると思う。しかし、その人となりを知る人はあまりいないのではないでしょうか?

私たちは、今年春先に発売されたASTRIXのニューアルバムを手に、彼のスタジオを訪ねました。

様々なメディアで、アーティストとしての彼を知ることはできるが、彼の人間性についての記事はそう多くない。純粋にASTRIX=Avi Shmailovとはいったいどのような人物なのだろう?と強い関心を抱いている人は多いだろう。

デビュー前からその才能に注目が集まり、十数年に渡って名実ともにトップアーティストとして疾走し続けた彼を、突き動かすものは何なのだろうか?

また、トランスとパーティを楽しむことについて彼がどう感じているのかを少し知りたいと思ったからだ。

そして私たちは、ついに「ビッグスター」に会った。彼は、私たちが想像した通り、いや想像してたよりもずっと謙虚で優しくとてもナイーブな人物だった。世界中のビッグフェスティバルでヘッドライナーを務め、およそ百万人もの人々がFacebookでフォローする世界有数のアーティスト。しかし実際は、ひとりでいることを好む、ちょっとシャイな、僕らとそう変わらないごく普通の人物だった。他に迎合することなく貫いてきた真摯な姿勢が、孤高のオーラとなり彼を包んでいるのだ。そして、彼は心からサイケデリックトランスを愛しているのだ。

iFLYERで9月10日にageHaに登場するASTRIXが出演するイベント、Mother supported by ageHa / ASTRIX NEW ALBUM “He.art” RELEASE PARTYの前売りチケットを発売中!
 
Q:あなたにとって、このスタジオはどんな意味を持っていますか?

A:僕にとってスタジオはチャンネルのようなものなんだよ。考えや感情を音に変換してくれるところだね。ここはいわば僕にとって心臓のようなところで、つまり僕が生きていく上で欠かせないパーツの一つなんだよ。日々の生活の中で湧き出てくる様々な感情を、解き放つことができる空間。つまり僕という人間のすべてがここにあるといっても過言ではないと思う。人生のほとんどをスタジオで過ごすわけだけど、もし何らかの理由でスタジオで働けなくなったなら、僕の人生は全く違ったものになっていたと思う。



Q:最新のアルバム『He.art』について教えてください。 

A:アルバムのタイトルは『He.art』。今回のアルバムは完成するまでに本当に長い時間をかけたよ。今回アルバムを作る前に決めていた大きなことのひとつに、「原点回帰」というキーワードがあるんだ。すごく難しいことだったんだけど、デビューしたばかりの頃と同じエネルギー、同じパッションを持って創作することを大切にしたんだよ。デビューから長い年月を経て、今の僕は当時とはまったく違う場所にいる。当時よりも経験豊かだし、あれほど天真爛漫じゃない。技術的レベルも精神的レベルの両方がずっと高く成熟したし、それは音楽性に反映されて、いろんなテイストの音楽を作れるようになった。成功という言葉が適切かどうかわからないけど、その成功によって自由な時間ができたし、より音楽と向き合う時間が持てるようになったから、創造性もずっと広がりが出てきたんだよね。例えばジャムセッションを始める前にはスタジオの中で、自分の描写したい世界観をより具現的にするために、絵の具で自分の作品を描いてみたり、彫刻にしてみたり。それはまるで小さな儀式のようで、この創作活動が音楽により深みを与えてくれるようになった。そんな過程を経て音楽性により深みを持つことができたんだけど、何か足りないものがあるとずっと感じていたんだ。ずっと忘れていたもの、そう、デビュー当時の何をしても楽しかった、結果を恐れずいろんなことにチャレンジした、あの音楽を楽しむというパッション。それが欠如していることに気がついたんだ。もちろん、今まで音楽制作もライブもとても楽しんでいたし、真剣に向き合ってきた。でも余裕が生まれて落ち着きを得た代わりに、なくしたものがあったことに気がついたんだよね。このパッションを取り戻すことが次なるステージにいくために必要なものだと思ったんだ。そして、自分の音楽に情熱を持って長い時間かけて向き合った試行錯誤の結果、僕は「サイケデリックミュージック」が心から好きなんだという答えにたどり着いたんだよ。それを具体化させたのが今回のアルバム『He.art』なんだ。聞いてもらったら、僕の言わんとしていることが理解してもらえると思うよ。
 


Q:前回のアルバム『Red Means Distortion』とはどう違いますか?

A:今回のアルバムは、前回とは全然違う作品だと思う。正直に話すと、今の自分は、前回のアルバムとはあまり繋がっていないと思うんだ。音楽に対する向き合い方が変わったから、必然的に音楽性も変わったんだと思う。前作の頃は、あまりにも頻繁にツアーをしていたから、あのアルバムのほとんどはツアー中に書いたし、ちゃんと作る時間が十分になかった。逆にニューアルバムは、これまで話したように、しっかりと時間を作って丁寧に向き合ってきた。前回と大きく違うところに、制作プロセスにおいて自分のルーツに戻ろうとしたということもあるよね。日中に創作活動はせず、夜に集中してやった。夜は、人と宇宙の繋がりが生まれる時。それは、音楽 (あるいは他の種類のアートでも) 制作に深く影響を与えてくれるんだ。雑音も少ないし、インターネットやメディア、ウェブからの接続も断つことが出来るからね。


Q:アルバムカバーが素晴らしいですね。

A:カバーは、友人でもあるブラジル人アーティストIvanhoé Lewandowskiに手伝ってもらいながら、自分で一からデザインを起こしたんだ。これも今回とても大切にしたことなんだ。自らの音楽は、自らのアートワークで描写してこそ、調和が生まれる、そう信じてるんだよ。ルーツに回帰することが今回の大きなテーマだったから、アートワークもとてもサイケデリックなものに仕上がった。すごく満足しているよ。アートワーク制作は、非常に長く創造的なプロセスが必要なんだ。音楽制作と並行してやったよ。それが一番リアルタイムに音楽にもアートワークにも影響を与えるから。初めは今のものとはずっと違っていたんだ。音楽が変わる度に変化し続けたんだよ。だからアルバムが仕上がった時に、アートワークも仕上ったよ。そのスケッチのすべては僕のコンピュータにある。だからおそらくどこかのタイミングでそれも発表すると思う。そうすれば、そのプロセスを見て感じてもらうことが出来ると思うんだ(笑。



Q:前回のアルバムはあまり好きでないと言ってましたが、過去の曲で、とくにこれは好きじゃないという曲はありますか?

A:「好きじゃない」という言葉は使いたくないな。むしろ繋がっているかどうかの問題なんだよ。これまでにリリースした初期の曲を聴いていやな気持ちになったとしても(よくあることじゃないけど)曲を嫌いにはならない。たいていは笑う。そうした曲の中でさえ素晴らしいと思える部分を見つけることもある。点で見るんじゃくて、線でみるんだよ。あの時のあの楽曲が、今僕がとても気に入っているこの曲を作るベースになっているんだと思えることが大事。逆にいうとそういった線で物事を考えないと、発展も成長も、そしてミラクルも起きることはないと思うよ。


Q:あなたにとって、トランスとは何ですか? 

A:短いけど、とても重要な質問だね。トランスとは、世界のすべての人々が理解でき (他の世界の人々でさえも、と彼は笑う…)、人々を非常に深い根本的レベルでつなぐ言語といったところだと思う。トランスミュージックには、非常にオープンで寛容なところがあり、なんでも取り入れることが出来る。それは、人々を別のレベルでつなぐ音楽なんだよ。トランスフェスティバルでよく起こるこミラクルな瞬間。世界と一体化したような絶対的な幸福感や安心感は他の音楽ではなかなか起こり得ない。音楽のいい、悪い、好き、嫌いの話ではなく、
非言語コミュニケーションは、トランスミュージックが持つ独自性であり、一番強い要素だと思う。
 


Q:昨年の最も強烈なライブは何でしたか?

A:間違いなくOzora Festivalはそのうちの1つだったと思う。あれは本当にスペシャルで不思議な体験だったよ。観衆と一体化し、生み出された強烈な繋がりは今でも体に残っているよ。EDC Vegasもとても最高だったね。とにかく巨大(笑。オランダのPsy-Fi Festivalも楽しかったよ。東京のageHaはいつも最高で、1年に1回は訪れたいギグのひとつさ。そしてもちろん、ブラジルのUniverso Paralelloで1年を締めくくり、新しい年をスタートさせられるのは、毎年のことだけど素晴らしいと思う。
 


Q:ファンとはどう接してますか? また有名であることについては?

A:有名で顔が知られているのは必ずしも好都合なことばかりじゃないけど、僕の音楽を愛する人々、特に遊びに来て踊ってくれる人々との交流は、誰構わず楽しみたいタイプ。僕にとってそれは仕事として重要な部分というよりは、人と交わることが好きだから苦にならないんだよね。セッションをした後は、いつもダンスフロアに下りるようにしてる。みんながどんな風に楽しんでくれたか、肌で感じたいし、話を聞いてみたいと思うから。世界中の人々と親しくなって、彼らが僕の音楽について感じていることや思っていることを聞くのは最高だよ。そんな繋がりをいつも探しているから、実際に友人も出来たし、ここ何年も連絡を取り合ったりしていい仲になった友達もたくさんいるんだ。


Q:今後の予定は?

A:Tristan、Avalon、Ajja、Raja Ram、Magik、Burn In Noiseといったアーティストとかなりの数のコラボレーション曲が進行中なんだけど、中でも僕の音楽人生における最も重要な出来事のひとつが起こったんだ。次のShpongleのアルバムで、Shpongleとコラボレーションが決まったのさ。僕は筋金入りのShpongleのファンなんだ!それから、Alpha Portalもある。これは、Ace Venturaと僕の新しいプロジェクトで、たぶん完全なサイケデリックトランス体験と言うのが一番ふさわしいかな。名前からわかるように、僕たちはこのプロジェクトにもう1つの次元を付け加えようとしてる。今年のOzoraで初披露するから、楽しみにしててくれ。