2018年5月31日、マイナビBRITZ赤坂で開催された「Porter Robinson's Virtual Self」。エレクトロニックミュージック・アーティストとして世界的な人気を誇る Porter Robinson(ポーター・ロビンソン) によるサイドプロジェクト Virtual Self(ヴァーチャル・セルフ) は、Porter Robinson としての活動とは一線を画したものとなり、日本のアーケードゲームであるダンス・ダンス・レボリューション 等のゲームミュージック、90年代〜2000年代初頭に掛けてのトランスミュージック等からインスピレーションを得て作られたという楽曲・独自の世界観を持つプロジェクトとして話題をさらっており、先日アメリカで開催された EDC Las Vegas にて行われたライブショーは、各方面から大絶賛された。


そんな Virtual Self の、本国アメリカ以外での世界初ライブとあって、大きな注目を集める中開催された今回の来日公演。Virtul Self 登場までの間、DJを務めた Carpaiter(TREKKIE TRAX)の、浮遊感と東京らしさのあるフューチャーベースが、まだ見ぬライブに期待を膨らませる人々の気持ちをますます高めた後、一旦照明が落とされ、いよいよお待ちかねの Virtual Self のショーが始まった。


床から天井に伸びる、いくつもの光の柱の中、Virtual Self のライブが始まる。ステージ中央には Porter Robinson が一人きりでDJブースに立ち、DJ ブース以外のステージ上は、小さな大砲のように物々しいパワフルなレーザー装置とLED照明によって埋め尽くされ、更にステージの周囲には天井まで伸びたLED照明の細い棒が、天井からもライトやレーザーが発射されるようになっていた。

かなり大掛かりなライティングシステムが採用されていたが、これらも全てPorter Robinson の監修によるものだそうだ。レーザーとLEDライトは、彼の奏でる音楽とぴったりのタイミングで動き回り、様々に表情を変える幻想的で未来的な世界を作り出した。


ライブのスタートから3曲目にして Virtual Self の楽曲の中でも人気の高い “Ghost Voices” がプレイされると、オーディエンスから大きな歓声が上がった。床から伸びる青い照明が、くるくると大きな車輪を回すように回転する。 “Ghost Voices” が終わると、Virtual Self の楽曲を制作していると設定されている2人のキャラクターのうち、仮面をつけた白い女性、Pathselector(パスセレクター) の顔がスクリーンにに映し出され「Are you ready?(準備は良い?)」と観客たちに問いかける。


Pathselector は Virtual Self の楽曲のうち、Ghost Voices や a.i.ngel といった楽曲を制作しており、そしてハードコア系の楽曲の方は黒い女性のキャラクター、technic-Angel(テクニックエンジェル) が制作している、という設定となっており、今回のライブも、前半が Pathselector、そして後半が technic-Angel、といった風に構成されていた。彼女たちそれぞれのステージが終了する度に、Porter Robinson が彼女たちを見送るかのように一旦背後のモニターを仰ぎ見ていたのが非常に印象的だった。


途中、90年代の伝説的メディアミックス作品 Serial Experiments Lain のアニメOP映像と共に、そこで使用されていた Boa “Duvet”Scummv Remix/Virtual Self Edit が流れ、会場にどよめきが走った。Serial Experiments Lain の世界観は、今回の Virtual Self のショーの世界観と絶妙にマッチしていた。機械的で囁くような低音の声が曲間にVJ画面に現れる次の曲名などを囁く手法、Pathselector と technic-Angel という、白と黒、相反するような2人のキャラクターにより作り出されていると設定されている Virtual Self の音楽世界の持つ2面性のようなものも、Serial Experiments Lain を彷彿とさせるものだった。
他にも Porter Robinson は、恋愛アドベンチャーゲーム「AIR」から、鳥の歌をプレイしたりと、日本のオタクカルチャーに対する造詣の深さに関心させられた。


technic-Angel のターンとなると、ジャングル、トランス、ガバといったジャンルの低音が強烈でアップテンポな楽曲が次々と繰り出される。途中、technic-Angel の顔がスクリーンに映し出され、観客に囁いた。

「Do you know who I am? I'm called technic-Angel. Do you know the song, Ghost Voices? I created new virsion. Let's experiens this music. Do you feel my fears?」


そして、ユーロビート的アップテンポなアレンジが施された Ghost Voices (Virtual Self Technic Angel Remix)がスタート。視覚と聴覚の両方から迫り来るノンストップの怒涛の展開、そして観客に現実を完全に忘れさせてしまう、あまりにも強烈に印象付けられる演出。約90分間の間、Virtual Self はオーディエンスたちを全く別の次元へと連れ去ってくれた。


もはやただのライブと呼ぶには異次元すぎる、圧倒的な異次元世界をファンたちに見せてくれた Porter Robinson。ユーロビート、エレクトロニック、トランス、ジャングル… Virtual Self の手掛ける音楽は、90年代からの音楽ファンにはどこか懐かしく、そして新世代の音楽ファンには新鮮に聞こえたのではないだろうか。しかし、決して既存のままにとどまるわけではなく、そこに更に Virtual Self 独特の味付けを加えることにより、非常にSF的な世界観のある楽曲として昇華していた点が更に興味深く感じられた。


新たな伝説をここ日本に刻みつけていった Virtual Self というプロジェクトは、今後一体どのように形を変えて進化していくのだろうか。想像すると、楽しみでならない。

Written by きのや