7月29日、この日はヒップホップシーンにおいて新たな歴史の幕開けとなった。

ニューヨークのラジオ局HOT 97が開催する人気アーバンフェス、「HOT 97 SUMMER JAM」はアメリカでは絶大な人気を誇り、数多のアーティストが「HOT 97 SUMMER JAM」に出演し、ニューヨークで認められることを目標に掲げる。「HOT 97 SUMMER JAM」は23年に渡ってニューヨークで開催されてきたフェスだが、これまでに海外での開催はなかった。そして、2016年7月29日、初の海外展開として「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」をZEPP TOKYOで開催することになった。
ヒップホップファンなら誰もが憧れる権威あるフェスが東京で初開催となるのだから、ネットでの反響は大きく、チケットは即完売。さらに渋谷VISIONで開催されるナイトパーティにはJoey Bada$$の出演が決まり、開催前から話題が絶えなかった。

イベント前日に梅雨明けが宣言され、まるで天までもが待ちわびていたかのような晴天に恵まれてイベント当日を迎えた。当日はヒップホップを愛する多くの若者が都会的なアーバンファッションでZEPP TOKYOに集まり、心の底からヒップホップの祭典を楽しもうとしていた。
 

入場口はフェスティバルパークが設けられ、バスケットコート、フォトブース、モニュメントなどがあり、アーバンフェス特有の都会らしさが感じられた。




そして会場では数え切れないほどのファンがフロアを埋め尽くしている。DJやラッパーのパフォーマンスに釘付けになって見入る人や、音に身を委ねて踊る人など、多種多様な楽しみ方でヒップホップに酔いしれていた。AKLO, AK-69などの日本人アーティストに加えて様々なトップアーティストが出演していたが、今回は特に反響の大きかったDJ・アーティストを2組ずつ紹介したい。

DJ ENUFF

「HOT 97 SUMMER JAM」のリーダー格であるDJ ENUFF。デビュー当初、ニューヨークの小さなパーティーを頻繁に開いていたDJ ENUFFはラジオ番組関係者との運命的な出会いで番組を任せられることになる。瞬く間に彼の名前は知れ渡り、彼はDJとしての成功を収め、「HOT 97」では看板DJとなった。そんなDJ ENUFFは長年のキャリアを積んできたニューヨークへの思い入れが強く、「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」でもニューヨークの夢と魅力を語ったJAY-ZとALICIA KEYSの名曲で本場ニューヨークでは最大のアンセムである「Empire State Of Mind」をプレイ。「ニューヨーク 夢が叶うコンクリートのジャングル 不可能なんて何もない街」というリリックを東京の地で響かせた。他にも様々な名曲をイントロで素早く繋ぎ、ファンの歓声を誘っていた。DJ ENUFFのこのイベントへの並々ならぬ強い思いを感じさせるプレイで「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」の真髄を肌で感じられた。

DJ LEAD

日本人DJとして、DJ CAMILOやDJ ENUFFらの所属する“THE HEAVY HITTERS” に加入し、ニューヨークの最前線を感じてきたDJ LEAD。
10分間という短い持ち時間ながら彼の意気込みを強く感じられるアッパーな選曲、スピーディーかつスキルフルな繋ぎでフロアを大いに沸かせ大役を果たした。日本人として出演する、大きな思いと気持ちを満員のファンにしっかり伝えてくれた。


DJタイムはあくまでライブとライブの間の転換という位置付けになるのだが、以前DJ ENUFFとDJ LEADの2人にインタビューした際に語っていたように本場ニューヨークのイベントでもDJたちはターンテーブルとマイクを駆使して全力で盛り上げにかかる。ニューヨークで認められたDJだけが立てるこの舞台では遠慮は一切ナシ。この風潮は東京でも存分に生かされ、DJタイムでもファンたちは休むことなく踊り続けていた。

PUSHA T

ラインナップ発表時、反響の大きかったアーティストであることは言うまでもない。G.O.O.D.Musicの社長にも就任したPUSHA T。あらゆる名曲に参加し、クラブでは彼の参加する曲を聞かない日がないと言っても過言ではないほど。重みのあるドープなサウンドで知られる彼を見るために来たというファンも多いだろう。
PUSHA Tは「I Don’t Like」でステージに現れ、ファレルも所属していたClipse時代の往年のヒット曲「Grindin」や自身が参加したKanye Westの「Runaway」などを披露。「KING」の異名を持つPUSHA Tはステージを縦横無尽に歩き回り、フロアにいるすべてのオーディエンスの視線を一点に集める。大合唱も度々起こり、会場の心を一つにしていく姿はまさに「KING」の名にふさわしいものだった。

FRENCH MONTANA

イベントのトリを飾るのは8月に3年振りとなるアルバム『MC4』をリリースするFRENCH MONTANA。彼を待ちわびているファンは期待に胸の高鳴りが抑えきれず、登場前から独特の雰囲気に包まれていた。ヒップホップ界でも有数のビッグネームであるFRENCH MONTANAはステージに姿を現わすだけでファンが圧倒されるようなオーラを放っていた。ZEPP TOKYOのステージが小さく感じられるほどに大きな存在感を示した彼は「Hot Nigga」のリミックスや「Don't Panic」など、ファンが待ち望んでいた名曲を惜しみなく歌い上げていく。さらに彼のアンセムとも言える中毒性バツグンの「Ocho Cinco」でフロアは大きく揺れながら大合唱。ここまでの盛り上がりをさらに上回ってきた。その後も「Pop That」や「Off The Rip」など、ヒップホップアンセムを次々に披露。最後は宇多田ヒカルの楽曲をサンプリングした「Sanctuary」という、日本でのライブならではの選曲で締めくくった。



「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」は、本場ニューヨークで築き上げられた雰囲気を東京で作り出すことを重視しており、ニューヨークスタイルの演出やスタッフ配置にこだわっていた。ただ、全てをニューヨークスタイルに染め上げるのではなく、開催地であり様々な文化の発信源である東京に対するリスペクトも感じられた。DJたちのプレイに日本語ヒップホップが散りばめられ、MCを務めるNESSAやDJ CAMILOらは「オツカレサマ!アリガトウ!」などといった日本語でファンは親近感を感じていた。

イベント終盤、NESSAは
私たちはこの東京で「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」を開催できて、そして東京のファンに受け入れてもらえて、本当に誇りに思う。これから毎年開催して、さらに大きなイベントにしていきたいわ。アリガトウ!とZEPP TOKYOに集まったファンへの感謝を伝え、さらに来年への意気込みも語った。

そして最後にマイクを手渡されたDJ LEADは
来年はこの5倍の規模になって帰ってきます!と熱いまなざしで語った。日本とニューヨークの架け橋となった彼の思いは人一倍強いものがある。


こうして「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」は大盛況のうちに幕を閉ざした。ニューヨークで始まり、今年満を持して東京にやってきた「HOT 97 SUMMER JAM TOKYO」。新たなビッグフェスが東京に生まれる瞬間の目撃者となったファンたちの間で語り継がれ、ますます大規模なイベントになることを期待したい。