ダンスミュージックに焦点を当てた国際音楽カンファレンスイベント「TOKYO DANCE MUSIC EVENT(TDME)」が11月30日〜12月2日の3日間に渡り、渋谷ヒカリエ及び渋谷エリアのクラブ・ライブハウスで開催された。

今年で2回目の開催となったTDMEは、音楽ビジネス、マーケティング、アート、テクノロジー業界に携わる関係者向けのビジネスカンファレンスの「CONFERENCE」、楽曲制作者向けのワークショップやスタジオセッションが行われる「SESSIONS」、そして国内外のアーティストによるライブイベントの「LIVE」という3本柱で展開。

日本のクラブシーンにおける新たな可能性を探求するべく、国内のみならず世界各地からダンスミュージックシーンの有識者・アーティスト・クリエイターらがスピーカーとして参加。なお、海外ゲストスピーカーの登壇では同時通訳デバイスが準備されており、言語の壁を超え、多彩なコンテンツを楽しむことができた。​
 

JEFF MILLS presents
PLANETS the Celestial Body Installation


TDMEでしか体験できないスペシャル・コンテンツとして注目を集めたのが、デトロイト・テクノのオリジネイターJeff Millsによるサウンドインスタレーション。Sympho Canvas®考案のオリジナルコンセプトに加え、ageHaやVENTのサウンドシステムを構築したTaguchiHIRANYA ACCESSが手がけるサウンドシステムで、Jeff Millsがオーケストラと共に作った作品「Planets」を楽しめるというもの。

一見スピーカーには思えないような大小様々な形をしたスピーカーを本物のオーケストラと同様の配置で設置。ビジターはそのスピーカー群の間を自由に歩き回ることができた。それぞれのスピーカーから出る音に集中している人、指揮台に上がってコンダクターが聴こえている音を実際に体感する人など多くの人がこのコンテンツを楽しんでいた。
 

音と光の連動がもたらす、
エンターテインメント空間演出の未来


興味深いコンテンツだったのが、Pioneer DJによる「音と光の連動がもたらす、エンターテインメント空間演出の未来」。Pioneer DJがTC Supplyと共に手がけるソフトウェア「ShowKontrol」をお披露目。DJがプレイする楽曲の波形を読み取り、光や映像のタイミングを自動的に合わせたり、ビートに合わせて光の色や方向、強弱まで自由自在にコントロールすることができるという画期的なこのソフトでは、スモークや花火など音楽フェスには欠かせない特効演出も制御することが可能だという。

国内クラブで活躍するライティングアーティストYamachangによるデモンストレーションも行われ、ストロボやレーザーが楽曲と連動して動く様子を参加者は興味深く見つめていた。これまで人の手で行われてきた作業が、自動で行えるようになればより高度な演出手法が可能となる。「こういった技術が浸透すれば、よりセンスのある人に需要が高まっていくだろう」とパイオニアの湯浅氏が語っていたのが印象的だった。​
 

Production Workshop
from Spinnin’ Records Artist Mike Williams


2日目に開催されるコンテンツで事前から大きな注目を集めていたのは、今回が初来日となるオランダ出身の若きDJ/プロデューサーMike Williamsによる楽曲制作ワークショップ!彼自身が楽曲制作の際に実際に使用している楽曲制作ソフトLogic Pro Xを巨大スクリーンに投影し、10月にリリースしたばかりの新曲「Melody (Tip Of My Tongue)」をどのように作ったのかをじっくり丁寧に説明するというとても貴重な時間となった。
 

ワークショップ冒頭に「この中にどれくらいプロデューサーが居るのかな?」と会場に向かって尋ね、トラックメーカーが多数参加してることを知ったMikeは、実践的な楽曲制作の流れを通訳を交えながら説明。またこの曲でフィーチャーしたボーカルとの不思議な縁についてなど制作時のエピソードも盛り込みながら和気あいあいとした雰囲気でワークショップは進行されていた。終盤には参加者からMikeへの質問タイムも設けられ、より詳細なソフトの使い方について答えたり、プロデューサーがどうやって自身を売り込んで行けば良いのかなど、自身の体験を元にした貴重なアドバイスを行っていた。​
 

一つの音をどのように調整しているのか、そして数え切れない程音のレイヤーを重ねてマスタリング作業を行い、やっと一つの曲として完成させるまでの過程などを惜しみなく披露してくれたMike Williams。彼のワークショップに参加した聴衆は、例えトラックメーカーでなくとも、今後様々な音楽を聴く際にまた違った視点からの楽しみ方もできるようになったのではないだろうか、と感じさせる素晴らしいワークショップだった。
 

またMike Williamsは同日の夜に、渋谷ヒカリエにてSPINNIN' SESSIONSとTDMEのコラボイベントである「SPINNIN’ SESSIONS at TDME」にて初来日公演を行った。SPINNIN' SESSIONSには、他にもEDX、MADISON MARS、ALISA UENOも出演し、会場のボルテージは常に最高潮に。最高の音質と最高のパフォーマンスが揃い、会場全体を包み込むハッピーな一体感で、詰め掛けたオーディエンスに忘れられない夜として記憶されたのではないだろうか。
 

TDMEではヒカリエ以外でも、渋谷近辺の多数のクラブで関連イベントが開催された。

表参道のクラブVENTでは、DJユニットMONKEY TIMERSによるパーティ「DISKO KLUBB」が開催。ベルリンのトップパーティーを主催するDJ、Mr.Tiesが出演し、マイクパフォーマンスに加えカリスマ性溢れるテクニックで満員となったフロアを踊らせていた。​
 

2日(土)の渋谷Contactには半生を音楽キュレーターとして活動してきたCollen 'Cosmo' Murphyが登場し、長年のキャリアを持ち現在に至るまでハウス・ミュージック界のトップとしてシーンを牽引しているDJ NORIとのB2Bも披露。多数のカラフルなバルーンで装飾されたピースフルな空間となっていたメインフロアでは、人々が気持ちよさそうに音に身を委ねていた。
 

日本のクラブカルチャーにとって大きな転機となった昨年6月の風営法改正。ナイトライフの更なる活性化やクラブのイメージの向上を目標として、地域や国といった社会、そして世界の人々とパートナーシップを築いていくことの重要性を改めて感じる事ができた。欧州諸国のようになるのはまだまだ多くの課題があるが、業界全体が同じ方向を向き進んで行くための良い交流の場となったTDME。日本の音楽・クラブシーンを更に活性化させていくにはどのようにしていくべきであるか、日本の音楽メディアの一端を担うiFLYERの役割を深く考えさせられた3日間でもあった。

Written by:Yurie