ワイルド・ナッシングはアメリカのポップ・バンドだ。ただ、バンドと言ってもJack Tatum(ジャック・テイタム)しか在籍していないワンマン・バンドである。テイタムは2009年の夏頃からワイルド・ナッシング名義でレコーディングを始めた。当時のC86の再評価のムーヴメントの中、彼のケイト・ブッシュのカヴァー「クラウドバスティング」はインディ・ミュージックのサークルの中で大きな話題となり、結果、テイタムはブルックリンのレーベル、キャプチャード・トラックスと契約することとなる。こうして、2009年には「Cloudbusting」「Summer Holiday」という2枚のシングルをリリースした。
2010年、21歳のテイタムは、ミュージシャンよりもフットボールのファンやエンジニアを生み出すことで知られるヴァージニアのブラックスバーグの大学の最終学年に籍をおいていた。そしてこの年の春にリリースされたのが、ワイルド・ナッシングのデビュー・アルバム『ジェミニ』である。
『ジェミニ』は2010年の夏のカルト・ポップ・レコードとなった。このアルバムは、夏の幼少期の切望が軸となったアルバムだった。そこには、即座に二分する不安ときまぐれなパラノイアが流れている。テイタムによってホーム・レコーディングされた80年代のインディ・ポップをルーツに持つこの作品は、インターネットを通して、瞬く間に人気を獲得することになった。アルバムは同年のピッチフォークの年間ベスト・アルバムの1枚にも選ばれ、評論家からも極めて高い評価を獲得。『ジェミニ』は、ポップ・ミュージックに対する独自の技法を持つテイタムの未来を約束するアルバムとなったのだ。こうしてテイタムはヴァージニアの友達を集め、初めてのツアーに出ることにもなった。また同年の末にはフォローアップとなるEP『Golden Haze』もリリースした。
テイタムにワイルド・ナッシングとは何かと尋ねると、彼は『矛盾』と答える。彼は矛盾の中で生きている。ワイルド・ナッシングは一人の男性によるポップ・バンドであるとよく言及される。実際、テイタムは曲を独りでスタジオで作っている。ただ、ツアーではバンドと一緒だ。二つのワイルド・ナッシングが存在するのだ。
「僕がポップ・ミュージック好きであるということを皆に伝えるアルバムではないと思う。それよりは、僕の理想世界の中でポップ・ミュージックは何だったのか、またどうあるべきなのか、といった感覚を表現したアルバムだ」
ニュー・アルバム『ノクターン』について尋ねられると、テイタムはこのように語る。『ノクターン』は、テイタムのポップ・ミュージックの理想世界の窓となるアルバムだ。2011年、ジョージアのサヴァナでアルバムの曲の大半は書かれた。これらの曲は、新しいワイルド・ナッシングの世界を語る。ジャックが受けたポップ...
More Biography