新作を心待ちにして、パッケージやライナーノーツ、繰り返し何度か聴いたら、パズルがかちっとはまるような気分に最後になったのはいつだろうか?もしそんな気分になったことがしばらくなかったのなら、The Presetsのシンセがちりばめられたから出た新作『Pacifica』を覚悟して聞くといい。
90年代半ばにシドニーの音楽学校で知り合ったキム・モイズとジュリアン・ハミルトンはThe Presetsの前にPropという別のバンドとの作業でまず経験を積んでいる。Propの楽曲をリミックスしたことでエレクトロニックミュージックに目覚め、その後2人で制作したEP”Blow Up”がオーストラリアを代表する名門レーベルの目にとまりデビューすることになった。瞬く間にその名を知らしめ、その独特でキャッチーなトラックの数々はアメリカの人気ドラマ『The OC』や『CSI:Miami』などにも起用され多くの人に記憶に残った。
クラシックの知識がバックグラウンドにあるプロデューサーでパフォーマーのキムとジュリアンは前作からの沈黙をついに破り発表したのが『Pacifica』だ。ツアーやその他〆切に追われることがなくなった合間に、自由なジャムセッションや鍵盤にふれてアイディアを掻き回し、制作に再度向き合うこととなった。ジュリアンは「20歳のころはこういうことしてたけど、それ以来できていなかった」と言う。
ここまで彼らを多忙にさせたのは、アウォードも受賞した『Apocalypso』が大きな一因だ。クラブキッズたちを熱狂させつつも、商業的なラジオをも捉えることに成功した珍しいケースで、The Presetsを大きく躍進させた作品となった。その成功はThe Presetsの特徴ともいえるヘビのようにうねるシンセ、常軌を脱したキック、野獣のようなベースラインがあわさったサウンド”My People”で聞くことができる。このトラックの決定的なコーラス「I'm here with all of my people!」はオーストラリア全土をとらえ、ダブルプラチナに輝き、ARIAのトップ100チャートでは75週にも渡りトップの居座った。その他”This Boy's in Love”、”Talk Like That”、”Yippiyo-Ay”、”If I Know You”などのトラックも功績を残したのを記憶に新しい。『Pacifica』のアートワークは2人が湖の上で漂流し、周りには限りない空間が広がるも金の手錠で繋がれているものだ。ある意味、自由と抑制の両方を表していて、両極、そして多くの異論など10年一緒に仕事してきて出てくるものを体現しているとも言えるのかもしれない。“Youth In Trouble”で幕開けするアルバムは、終わりが見えずゆるやかに起伏する“face-melting techno”へと繋がる。「メディアはドラッグ、セックス、インターネットといったものでいつも親をビビらせてるんだよ。大人は若者を恐れるように、そして恐れられるように教えられててるんだ。」とジュリアンは言う。「この曲は現代の若者に良くも悪くも関連づけられるパニックや、狂気、恐怖なんかからインスパイアされたんだ。」”Ghosts”に関してキムはこう説明する。「ジュリアンが最初にこの曲のイメージを演奏したとき、とにかくぶっ飛ばされたね。古典的なフォークスタイルからアップテンポなテクノグルーヴまで持っていくところはもう天才なんじゃないかと思ったよ。この曲から”A.O.”のアイディアを得たんだ。」
「最近John Birminghamによる”Leviathan”っていうシドニーの知られざる歴史を書いた本を読んでるんだ。キムもこの本のファンなんだけど、これから作曲に着想を得たりしてるよ。」ジュリアンはこう話す。「前からずっと地元に関する曲を書きたかったんだ。だって地元は最高だからね。世界中まわって改めてそう感じたんだ。でもシドニーには暗い過去があって、街の古い一部では骨の上を歩いているような気分になるところもあるんだ。」
「アーティストとファンとして、エネルギーや感情における光と陰の重要さは理解しているつもりだ。」とキム。「ビッグなパーティ・アンセムや心がとろけるようなテクノを書くのも最高だけど、穏やかで感情的な側面も見せたいと思う。僕らはすごい自信家にもなれるけど、同時にすごく繊細で自信をなくしちゃったりもするんだ。」
この先もヘッドライナーをつとめるギグがたくさん待ち受けているが、The Presetsはとても明快なマインドで臨めているという。自分たちをワクワクさせる音楽をつくり続けるプレッシャーはあるというが、今までうまくいったものを繰り返してチャート狙いだけではつまらないと2人は言っているが、一体どんな新しいスタイルの作品、そしてパフォーマンスを見せてくれるのか期待しよう。
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